過去編・第1話 研究発表会

「これで、私の発表は以上です。ご清聴ありがとうございました」


 発表が終わると、義務的で小さな拍手が私を迎える。


「なにか、質疑応答などがあればよろしくお願いいたします」

「......」


 まぁ、わかっていたさ。この気まずい静寂はいつものこと。そもそも自分の研究内容を10分で説明しきるのが無理だっての。私が大学でずっと研究してきた内容を時間内で完璧に伝えられるわけがない。


 私は頭の中でそんな愚痴をこぼしながら自分の席へと戻る。


「カズ君の発表ってわかりやすいんだけど、わかりにくいんだよね」

「どういうことだよ」

「私は何度もカズ君とお互いの研究について話し合ってるから、私にはすごくわかりやすかった。でも、初めて聞く人からしたら、テンポが速すぎて途中からついていけなくなっちゃうんじゃないかな」

「じゃあどうすれば」

「まっ、次は私の番だから。そこで見てなよ」




「......これで、私の発表は以上です。ご清聴ありがとうございました」


 福音ふくねが発表を終えると、今度は比べ物にならない暖かい拍手が彼女に送られる。質疑応答も時間いっぱいにおこなわれた。なんだか、負けた気分で少し悔しい。


「どうだった?私の発表」

「説明がくどいうえにテンポが遅すぎて眠くなったよ」

「ふふっ、でしょうね。でも、初めて聞く人にとってはこれくらいでちょうどいいんだよ」


 ただ一つ言えるのは私も福音も同じ10分で発表をしたという点だ。淡々と研究内容を発表していた私に比べたら、福音の発表内容は薄くなるはずだ。なのに、彼女の発表には何もぬけがなく、全てが10分という短い時間に詰め込まれていた。


「次の発表会では代わりに発表してくれないかなぁ」

「だめだよ。でも、今度は一緒に練習しよ?客観的にアドバイスしてあげる」

「そりゃ助かる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る