第14話 素数ブーストと解毒
「うわっ!?」
今の私のAGIは1147。この世界にきて初めて全力疾走したが、思った以上に速い。確実に人間の限界を超えている。走っている自分が一番驚いてしまい、かなり情けない声を出してしまった。しかし、感覚的に時速60kmくらい出ているおかげで私の声は風の轟音にかき消されたことだろう。
「ふぅー、もう着いた」
「は、はやかった......」
時速60kmというのは大体正確で、本当に10分足らずで町についてしまった。ポーションは使い切ったが、素数は7,13,31を残してのゴールだ。さすがにこの速さで町の中を走れば人身事故が起きかねないので、町の入り口からは小走りで道具屋へと向かう。
「緊急だ!この子に毒消し薬をっ!!」
「は、はいよ!」
今日の昼に訪れた道具屋の店長は、私の状況を見て薬の入った瓶をあわただしく持ってくる。
低級毒消し薬
効能 10
「これを飲むんだ」
「あ、ありがとうございます」
「......」
「......」
さぁ、治ったのか?
《彼女のステータスから、「死の毒」の状態は消えていません》
ナリー Lv21
状態:死の毒
「うぅ、ま、まだ、苦しいぃ」
「ちっ、毒消し薬でも死の毒は治らなかったか」
「死の毒だとっ!?」
私の嘆きに店長が過剰に反応し、声を荒げる。
「店長、死の毒について知ってるんですか?」
「詳しくは知らないが、最近そのような毒が発見されているらしい。しかし、あまりにも強力な毒なもんで、超高級毒消し薬以外で治ったケースはいまだにない」
「その超高級毒消し薬ってのはどこでる?」
「バカもん、一般人が手にできる代物じゃない。あれは聖女様が長時間儀式をしてやっと生成できる効能300以上の神の薬。王都クオシェントにしか売っていない。値段も規格外だろうな」
「そんな......」
「悪いことは言わねえ。嬢ちゃんのことはあきらめるんだな」
必要な毒消しの効能は300以上。しかし、店長から渡されたのは低級毒消し薬で効能はたったの10。店長の口ぶりから、これを30倍に濃縮すればいいって問題でもなさそうだ。
ん?まてよ、この毒消し薬の効能を30倍以上にすればいいんだよな。
助手さん、この薬の効能ってのもステータスに入るのか?
《はい。つまり、一時的ではあるものの先日のベビースライムのときと同様、マスターの持つ素数を掛けることで効能を上げることができます》
よし、それなら問題ない。
「店長、もう一つ毒消し薬をお願いできますか」
「30個飲もうが、100個飲もうが効果は出ねぇ。いい加減あきらめな」
「この子の命がかかってるんです!!」
「うっ......」
店長は私の真剣な表情に気圧され、乱暴にもう一つの毒消し薬を手渡す。私が今持っている最大の素数は31。この毒消し薬の効能に掛ければ、
「こ、これはっ!?」
超高級毒消し薬
効能 310 (31)
私が31を掛けた途端、青汁のように緑色に濁っていた毒消し薬は虹色に輝く澄んだ液体へと変貌した。これぞ神の薬。
「ナリー、次はこれを」
「えっ?う、うん」
とても人が飲む色をしていないが、彼女は躊躇なくごくごくと薬を飲む。すると今度は、みるみる彼女の顔色が良くなっていく。ステータスを見ても確かに「死の毒」の状態が消えている。彼女は治ったと確信して安心したのか、そのまま道具屋の床で寝てしまった。
「お前さん、い、今、薬に何をした」
「え、えっとー」
「あの輝き......、まさしく超高級毒消し薬。どうやって作ったんだ!?魔法か!?それとも何か入れたのか!?」
「き、企業秘密ですっ!!」
このままだと面倒ごとに巻き込まれそうなので、私は毒消し薬の代金を机の上に投げ捨て、彼女を再び抱きかかえそのまま宿屋の方へと疾走する。
「待たんか!」
道具屋の店長も私のことを逃すまいと追いかけようとするが、AGI1000以上の私の脚力に追いつけるはずもなく、ほどなくしてしぶしぶと店へ戻っていった。
◇◇
「すみません、部屋をもう一つとれますか?」
「おやおや、ナリーちゃんじゃないか。その年で酔いつぶれたのか?」
「まぁ、そんなところです」
「ナリーちゃんは食事なしでいいとして、あんたの分も合わせたら.....、合計で銀貨5枚だな」
《忠告。マスターは銀貨4枚しか持っておりません》
くっ、確かに今日は道具屋でいろいろ買いすぎたしな。
「......私も食事はなしで頼みます。だから銀貨4枚で」
「お、おぅ。そうか」
食事は念のため買っておいた非常食があるから問題はない。
はぁ、また一文無しかぁ。
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