第61話 公務員、迷宮探索に手応えを感じる

「よし……ひとまず、一区切りってとこだな」


 この3日間、効率よく魔物を倒し続け、魔石はちょうど200個、討伐ガチャポイントは202まで貯まった。このレベル上げの方式は、ひとつの確立されたやり方として定着させても良さそうだ。

 しかし、やはりガチャポイントがレベルアップで貯まらなくなった。

 俺のレベルは17、アルメリタが13、セリーヌが14。

 お金も必要なので、このままガチャポイントを無視して、魔石を貯めつつレベル上げに専念するのも選択肢の一つだ。装備の購入や必要なものを整理してから判断したい。


「まずはギルドに行こう。魔石を換金して、資金状況を整理する」


 二人も頷き、俺たちは迷宮を後にした。



 ギルドのカウンターに行くと、受付嬢のリネアがいた。


「おはようございます、和人さん」


「ああ、おはよう。今日も魔石の換金をお願いしたい」


 魔石をカウンターに並べると、リネアの目が少し見開かれた。


「……200個!? すごいですね……」


「まあ、アルメリタの気配察知のおかげかな」


 リネアは感心したようにアルメリタを見て微笑む。


「なるほど……カズトさんがDランクになってすぐにこれだけ稼げるのも納得です。普通のパーティーなら、もっとペースが遅くなりますから」


「はは、まあ、俺たちのやり方がハマっただけだよ」


 魔石200個の換金が終わり、リネアが金貨5枚を手渡してくる。


「6階層の魔物ばかりの魔石でしたのと魔石が少し不足してまして、合計で金貨5枚になります」


「いつもは、この量だとどのくらいの金貨になる?」


 今後の生活を考える指標として確認しておく。


「そうですね、最低でも金貨4枚にはなりますね」


「ありがとう、参考になった」


 これで手持ちは金貨7枚と銀貨8枚になった。


「さて、今後の資金計算をしておくか」


 現時点で、すぐに必要な支出としては以下のものがある。

宿泊費(1週間分):金貨1枚+銀貨5枚

情報屋への支払い:金貨1枚

 これで、金貨2枚と銀貨5枚が消える。


「今回のペースを維持できるなら、少なくとも3日で金貨4枚。1日休みを入れても、1週間で金貨8枚は確保できるな」


「この調子なら、お金に困ることはなさそうだね」


 アルメリタが喜んで話す。いつも、ギリギリの生活でごめんな。


「情報屋さんの支払いですが、私たちも情報屋さんを知っておいた方が良いのではないでしょうか?」


 セリーヌが遠慮がちに提案する。


「そうだな、知っておいて損はないな。次は一緒に行こう。露店通りのそばの路地裏なので朝一番だとスムーズに会えるし、人通りもほぼないので目立たないだろう」


 セリーヌとアルメリタは大きく頷いた。


「それから……そろそろ宿の部屋数を増やせるかもしれないな」


「え?」


 俺がぽつりと呟いた瞬間、二人の視線がこちらに向けられた。


「いや、ほら……今までずっと一部屋だったし、お金の見通しも立ちつつあるので部屋を分けたほうが、みんなも気を遣わずに済むんじゃないかって思って……」


 俺がそう説明すると、アルメリタがピクリと耳を動かした。


「ダメです」


 即答だった。


「え、いや、なんで?」


「カズトさんを守るためにも、一緒の部屋じゃないとダメです」


「……いや、宿の中でそんな危険なことあるか?」


「何かあってからでは遅いんです!」


 アルメリタはきっぱりと言い切った。


「それに、私たちが危険ということもありますからね。みんなでいた方が安心です。まだ、私もちょっと怖い時がありますし……」


 セリーヌまでそんなことを言い出す。


「ぐっ……」


 そんなことを言われたら、言い返せなかった。


「ということで、一部屋で決定です!」


 アルメリタが胸を張る。


「えぇ……」


 どうやら、宿の部屋を分ける計画は却下されたようだ。


「……まあ、いいか」


 俺は軽くため息をつきながら、話を続ける。


「とりあえず、宿代と情報屋の分を除いた残りの金貨5枚と銀貨3枚が今回使える金額になる」


 この資金で、装備や道具をどう整えるかが重要になってくる。まあ、多少オーバーしても稼げるから良いと思えるのは、これまでよりも気が楽だ。


「よし、一度宿に戻って、これからの計画を立てよう」


 俺たちはギルドを後にし、次の行動を考えながら宿へと向かった。



 翌朝、俺たちは迷宮探索を休み、装備の見直しと買い物の日にすることにした。


「そろそろ、セリーヌの剣と盾を返却しないとな」


 ギルドで借りていた装備は、他に必要な人もいるはずだ。ずっと借り続けるわけにはいかない。


「それにしても、どうします? これからもずっと6〜8階層を回る感じでいきますか?」


 セリーヌが問いかける。確かに、今のペースなら安全に戦えるし、安定した収入も確保できる。だが、それでは俺の成長が追いつかない。


「いや、それは長期的に見て、あまり良くない」


 俺のレベルが上がっても、ステータスはほとんど伸びない。結局、ガチャ頼りなのだ。となると、今後もガチャポイントを稼ぐ必要がある。


「じゃあ、どうするんですか?」


「安全マージンを取りながらも、次の階層に進むしかないな。とりあえず、10階層を突破して、さらに奥へ進めるような装備を整えるのが当面の目標だ」


 二人も納得したように頷く。


「さらに先の目標としては、最低限、数ヶ月後に奴隷商が戻ってきても、なんの影響もない程度に強くなっていたい。わかりやすい目標値は、以前に対面したガイという男だ」


 二人にガイの能力値を告げながら説明をする。


――――――――――――――――

ガイ

契約で動く傭兵

職業:盗賊

レベル:31

HP:107

MP:24

力:39

体力:41

魔力:19

耐性:31

敏捷:68

スキル:隠密C、暗視D、罠解除C、剣技C

固有スキル:なし

――――――――――――――――


 戦闘職ではないが、最低限、このレベルの敵に遅れをとらないようになること。そのため、一度レベルで30程度を目標にするとよさそうだ。

 アースティア王国の動向も気になるところだし、この程度強くなることを目標にしてよいだろう。


 よし、方針は決まった。

 延々と6〜8階層を潜り続けるのは長期的にみて安全策ではない。安全マージンをとりながらも、先に進むことがよいだろう。


「10階層を突破する、先に進むための装備を整えよう!」


 まずは防具屋へ向かい、魔法攻撃への備えについて聞いてみる。


「いらっしゃい。今日は何を探してる?」


「魔法攻撃に対する防御について聞きたい。特に、どうやって防ぐのが一般的なのか」


 店主は顎を撫でながら考える。


「基本的には、盾で受けるのが主流だな。物理攻撃と同じで、直接食らうよりはダメージが軽減される。ただし、魔法の衝撃には個人差があるんだよな」


「個人差?」


「魔法を受けた時の衝撃や影響は、耐性や装備の違いで変わるんだ。だから、一度体験してみるのが一番手っ取り早い」


「……試す方法はないか?」


「うーん……それなら魔法使いに聞いてみるしかないな。あと、魔法道具を扱ってる店なら詳しいかもしれない」


 なるほど、確かに魔法道具なら試せるものもありそうだ。


「助かった、ありがとう。ところで、今セリーヌが使ってるような最低限の盾って、いくらくらいする?」


「おう、汎用のものなら金貨1〜2枚ってとこだな。剣も同じくらいだ」


 金貨2枚ならなんとか買えるが、もう少し情報を集めてからの方がいいだろう。


「わかった。じゃあ、また来る」


 こうして、俺たちは次に魔法道具の店へ向かうことにした。



「ここのようですね」


 セリーヌが店の看板を確認する。

 扉を開けると、店内には不思議な魔道具が並べられていた。壁には巻物や小瓶が整然と並び、中央のガラスケースには光る魔石が収められている。

 カウンターの奥には、白く長い髭をたくわえたおじいちゃんが座っていた。


「いらっしゃい……おや? こんな朝早くに若いのが魔道具とは珍しいな」


 おじいちゃんは興味深げに俺たちを見つめる。


「魔法攻撃を防ぐ練習がしたいんですが、何か方法はありませんか?」


 そう尋ねると、おじいちゃんはしばらく顎をさすりながら考え込んだ。


「ふむ……できなくもないがのう」


「本当ですか?」


「最低限のファイアーボールならば、わしが小さな火の魔石とスクロールに魔力を込めて、一回分だけ携帯できるようにすることは可能じゃ」


「それって、どういう仕組みなんですか?」


「簡単に言えば、一度だけ発動できる魔法のストックじゃな。魔石が魔力の供給源となり、スクロールが魔法の発動媒体となる。これにより、魔力のない者でも魔法を使えるという代物よ」


 なるほど、いわゆる使い切りの魔法ってことか。


「ただのう、こういったもんは銀貨2枚ほどいただく高級品じゃ。実戦で魔法を使えるやつは自前で撃つし、こんな使い切りのものを買うやつなんぞおらん。ほぼ需要がないんじゃよ」


 おじいちゃんはそう言って、肩をすくめる。


「それでもいい。買います」


 俺は迷わず即決した。


「おやおや、即決とはのう……」


「迷ってる時間がもったいないんで」


 おじいちゃんはニヤリと笑い、手際よく魔石とスクロールを取り出し、そこに魔力を込めていく。


「よし、できたぞ。これを使えば、一回だけ小さなファイアーボールが撃てる。防御の練習にはちょうどいいかもしれんな」


「ありがとうございます」


 俺は銀貨2枚をカウンターに置き、魔道具を受け取った。


「ふむ、若いの、なかなか面白いやつじゃの。実験が終わったら、感想でも聞かせに来いよ」


「ええ、また来ます」


 こうして、俺たちは防御訓練用のファイアーボールを手に入れた。

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