第60話 公務員、効率を考える

 朝早くから迷宮へ向かう。

 今日の目的は6階から10階の換金効率の確認だ。ここでの狩りがどれくらい稼げるかを把握することで、今後の装備投資の計画を立てやすくなる。

 特に一番大事なのは、セリーヌの防具強化だと考えている。

 ギルドで得た情報だと、10階のボス戦に魔法防御が必須だ。今後も防具は最優先で揃えて行くのが良いと考えている。

 現状どのように検証すればよいかはわからないが、10階のボス戦に向けて魔法攻撃への防御を試しておきたい。敵のファイアウォールがどれくらいの効果を持つのか、いきなりボス戦でぶっつけ本番というのは危険すぎる。


「まあ、まずは6階、7階あたりで魔物討伐だな」


 俺はそう呟きながら、二人に今日の方針を伝えることにした。



「じゃあ、今日の方針だけど……」


 焚き火を囲んで、アルメリタとセリーヌに話を切り出す。


「まず、6階と7階だけを回る。最初に6階まで最短ルートで進んで、6、7階を隅々までマッピングする。そうすることで、通路や部屋の位置を把握する」


 二人は真剣に頷いた。


「なるべく効率よく狩るために、マップを完成させておいた方がいいってことですね」


 セリーヌが確認するように言う。


「そうそう。マッピングでは新規の敵の位置までは把握できないが、アルメリタの気配察知と複合させて効率的に魔物を狩る。時間を決めて狩りをし、どのくらいの換金効率になるかを確認したい」


「ふむふむ。魔物を倒すのにどれくらい時間がかかるかも大事ですね」


 アルメリタも納得した様子だ。


「もちろん、無理はせずに休憩を入れながらやる。苦しんでまで戦ってはダメだ。無駄な消耗を避けて、効率的に強くなることを重視したいが、それで苦しくなるのは本末転倒だ」


 効率的なレベル上げを目指し過ぎるあまりに、心が廃人になってしまうのはダメだ。メンバーみんなが楽しいと感じるまでにしないといけないと思ってる。


 二人とも、真剣な表情で頷く。


「よし、それじゃあ出発だ!」



 6階へ到達するまで、最短ルートを進む。

 すでにざっくりとマッピングが済んでいる5階までは楽勝だった。視覚的に自分の位置と向かう階段の位置が把握できていると、サクサク進める。


「さて、まずは6階をマッピングするか」


 俺はすぐにマッピングスキルを発動させ、通路を丁寧に記録していく。アルメリタとセリーヌも周囲に注意を払いながら、しっかりと迷宮の構造を確認している。


「マップが完成すれば、無駄な動きをせずに済みますね」


 セリーヌが感心したように言う。


「ほんと、カズトさんの能力って便利ですよね。こうやって地道に準備するのが大事だって改めて思いました」


 アルメリタも嬉しそうに笑う。


「二人が頑張ってくれるおかげが全てだよ。いつも、ありがとう」


 俺は心からそう思って、いつも感謝しているとお礼を言う。


 マッピングをしながら、6階層で何度か戦闘も行う。ただ、全体的に魔物の数は少ない。数回の戦闘で6階層のマッピングを終えた。

 続いて、7階への階段の位置を確認し、降りる。同じように慎重にマッピングを進め、通路など複雑な地形を記録しておく。わざわざ6階層と7階層の2階層にまたがせたのは、リポップ効率をあげるためだ。


「さて、ここからが本番だな」


 6階に戻り、魔物の討伐を開始する。

 ゴブリンファイターとゴブリンソルジャーが現れ、セリーヌが盾でしっかり受け止める。


「はぁっ!」


 鋭い剣撃がゴブリンファイターを切り裂く。

 アルメリタも素早く動きながら、ゴブリンの隙をついて斬り伏せる。


「うん、順調だな」


 そして、俺もアイテム投げで援護しながら戦いに参加する。

 そんなこんなで戦闘を繰り返し、さらに数体のゴブリンを倒したところで、俺の体にふわりとした感覚が広がる。


「お、レベルが上がった」


「おめでとうございます、和人様!」


 セリーヌが嬉しそうに微笑む。


「これでまた、和人様が強くなりますね!」


 アルメリタも満足げに頷く。

 レベル15か……何か新しいスキルを覚えるのか?

 俺は期待しながら、すぐにステータスを確認することにした。


――――――――――――――――

鈴木和人(スズキカズト)

巻き込まれた異世界一般人

職業:サポーター

レベル: 14→15

HP:69(39+30)

MP:89(59+30)

力:11→12(9+3)

体力:18(15+3)

魔力:40(22+18)

耐性:20→21(12+9)

敏捷:13(7+6)

スキル:鑑定⭐︎、生活魔法⭐︎、アイテム投げ⭐︎、パーティー状態表示⭐︎、罠発見&解除⭐︎、魔法効果向上E、火魔法D(1)、水魔法D(1)、土魔法D、風魔法D、成長加速C(1)、マッピングB、隠密C

固有スキル:異世界言語理解、ガチャ

――――――――――――――――


《魔法効果向上E》というスキルが増えている。


「これは……?」


 向上系のスキルは基本的に何にでも使える。魔法全般の強化なら、戦闘でも支援でも役に立ちそうだ。


「《魔法効果向上E》という、新しいスキルを覚えた」


「おお! すごいです!」


 アルメリタが尻尾を揺らしながら近寄ってくる。


「魔法が強くなるってことですね?」


「鑑定したが、Eだとちょっと魔法全般の強化されるようだ。詳しくはそれぞれの魔法で検証しないとわからないが、良い効果だろう」


 俺はスキルの詳細を確認しながら、少し考える。

 成長加速Cの経験値2倍効果の影響で、俺のレベルは二人よりも早く上がる。これは嬉しいことなのだが、同時に不安もある。


「ただ……レベル15になったけど、もしこれで討伐ガチャポイントが入らなくなったらどうしようか?」


 討伐ガチャポイントが貯められなくなるのは、俺にとってかなりの痛手だ。

 今のポイントは19。


「アルメリタ、セリーヌ、ちょっと試したいことがある。確認のために、もう一体魔物を狩らせてくれ」


 二人は少し驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。


「わかりました!」


「すぐにゴブリンファイターを探してきます!」


 すぐに近くの通路に潜んでいたゴブリンファイターを発見し、セリーヌが盾で受け止めながら、アルメリタがすばやく斬り伏せる。

 魔石を回収し、俺は祈るような気持ちで討伐ガチャポイントを確認する。

 ――ポイントは、20に増えていた。


「……っ、良かった!!」


 思わず安堵の息をつく。


「え、何がですか?」


 セリーヌが不思議そうに首を傾げる。


「討伐ガチャポイントはレベルによってたまらなくなるからな」


「……なるほど、それは毎回確認が必要ですね」



 セリーヌも納得したように頷いた。


「でも、無事に貯まって良かったですね、カズトさん!」


 アルメリタが嬉しそうに笑う。


「ほんとにな……。毎回レベルが上がるたびに、このハラハラと付き合わないといけないのか……」



「よし、レベルアップの確認もできたし、さっきの計画通り6階と7階で狩りの効率を試してみよう」


 二人は気を引き締めるように頷いた。


「7階で10体ほどを目安に狩ろう。長居するよりも、気配を察知できたらサクサク狩るイメージで行こう。魔物が視界に入れば俺もマッピングスキルで位置把握できるので、それも利用していこう」


「了解です!」


「じゃあ、やってみましょう!」


 マップを活用しながら、次々と魔物を狩る。

 7階の敵を10体ほど討伐し、続けて6階に移動。こちらも10体ほど倒し、少し休憩を挟む。



「やっぱり、マッピングがあると効率が段違いですね」


 セリーヌが感心したように言う。


「無駄な移動を減らせるので、体力の消耗も少なくてすみます」


 アルメリタも納得している様子だ。


「さて、7階に戻ってみよう」


 再び7階に降りると、ある程度魔物が復活しているのが確認できた。


「休憩や余裕を持って6階と7階の2フロアを狩るのをワンサイクルとして、90分くらいってところか」


 体感だが魔物のリポップ時間を考慮すると、3サイクルくらいがちょうどいい。


「やりすぎると疲れも出るし、魔物の数も回復しづらくなるから、今回は3サイクル試してみよう」


 休憩を挟みながら、合計3サイクル回した。

 最後のサイクルではリポップ効率が若干落ちていたように感じたため、明日からは6階~8階の3階層で狩る方が効率が良さそうだ。



「今日は、合計69体討伐か……」


 討伐ガチャポイントを確認すると、81ポイントまで増えていた。


「かなり順調ですね!」


 セリーヌが満足そうに頷く。


「迷宮だと魔物発見に結構苦戦したので心配しましたが、マッピングの威力がすごいですね。カズトさんすごいです!」


 アルメリタも嬉しそうに笑う。


「そうだな。明日は6階から8階での狩りに挑戦してみるか」


 俺たちは満足感を抱きながら、町へと戻った。


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