第62話 公務員、準備といえばガチャしないと

 魔道具屋を後にし、俺たちはすぐに町の外へと向かった。


「さて、今から魔法攻撃を防ぐ実験をするわけだが、ちゃんと段取りを決めておこう」


 俺はアルメリタとセリーヌを見渡しながら説明を始める。


「まず、セリーヌ。ファイアーボールを受けてもらってもいいか?」


「もちろんです」


 セリーヌが当然といったように答えた。


「もちろん、無防備に受けるわけじゃない。俺がファイアーウォールを使って、防御を強化した状態で試す」


「なるほど、火属性の防御をあげて確認ですね!」


「そういうこと。もし、これで衝撃すら感じないようなら、俺たちは魔法攻撃に対してかなりの耐性を持てるってことになる」


 セリーヌが真剣に頷くのを確認し、俺はアルメリタの方を向いた。


「アルメリタ、ファイアーボールの魔法スクロールを使って欲しい。俺は魔法効果向上スキルがあるので効果があがってしまうかも知れないので、念の為だ」


「わかりました、セリーヌさんに向かって撃てばいいのですね?」


「そうだ。ただし、威力が予想よりも強い可能性があるから、セリーヌもしっかり盾を構えておくんだ」


「はい、しっかり受け止めます!」


 セリーヌが大きく頷き、盾を構える。


「よし、ファイアーウォール」


セリーヌに火属性防御を付与する。


「じゃあ、いくよ」


 アルメリタがスクロールを展開し、魔法を発動させた。


「ファイアーボール!」


 赤い魔力が渦巻き、小さな火球が生成される。そして、勢いよくセリーヌへと飛んでいった。

 ――ボワッ!

 目の前に薄い炎の膜が広がる。そして、そのまま火球がセリーヌの盾に直撃――


「……えっ?ぜ、全然痛くない……!?」


 セリーヌが驚きながら、盾を見つめる。


「やっぱりな……ファイアーウォール、想像以上に優秀かもしれない」


「和人さん、すごいです! 魔法の攻撃を全く感じませんでした!」


 アルメリタも驚きの表情で俺を見る。


「これなら、ボス戦でもかなり有利になれるな」


「はい! これなら、魔法攻撃に対して恐れる必要がなくなりますね!」


「そうだな。魔法攻撃で、あと、もう一つ試したいことがある」


 俺は地面に落ちていた適当な石ころを拾い上げた。


「次は、俺がこの石にエンチャント火を付与して、盾に向かって投げる。さっきのファイアーボールと比べてどれくらいの威力かを確認する」


「なるほど、了解しました! もう一度、防御態勢をとりますね!」


 セリーヌが再び盾を構える。


俺はファイアーウォールを再びかけようとおもったが、ステータス表示でセリーヌの状態がファイアーウォール(14)と残り時間の表記がされていた。


「おお、《パーティー状態表示》も便利だな!これなら、効果がきれるタイミングが明確だ」


まだ時間は大丈夫そうだ、俺は手のひらで石を握り込む。


「《エンチャント火》」


 石が熱を帯びて赤くなる。


「いくぞ……!」


 俺は軽い力で石を投げる――

 ゴンッ!


「っぐ……!」


 盾に直撃した瞬間、セリーヌの腕がわずかに揺れる。


「今度は、ググッと衝撃が……!」


 セリーヌが小さく息をのむ。

「おお……ってことは、俺のエンチャント火の石投げ、ファイアーボールよりも威力があるってことか」


「いや、それ以上かもしれません!」


 セリーヌが驚いた表情で盾を見つめる。


「普通の魔法攻撃は魔力の制御が効く分、威力が一定だけど、カズトさんのエンチャント投石は、力と速さでダメージが上乗せされてるのではないでしょうか?」


「たしかに……考えたことなかったけど、その可能性はあるな」


「カズトさん、すごいです!」


 アルメリタが目を輝かせて俺を見る。


「本当にすごいですよ! これなら、遠距離攻撃としても十分使えます!」


「まさか、ここまで強いとは……さらに、エンチャントの属性を使い分けれるので、対応幅が広いのもすごい能力ですね」


 セリーヌも感心したように頷いた。


「いやいや、褒めすぎだろ……!」


「いえ、カズトさんは本当にすごいです!」


「そうですよ! もっと自信持ってください!」


 二人に褒められすぎて、さすがに俺も照れくさくなってきた。


「と、とりあえず、これでボス戦の準備は万端ってことでいいな?」


「はい! いけますね!」


「カズトさんがいるから安心して戦えます!」


「お、おう……頼むぞ!」


 魔法防御の実験も終わり、俺たちはいったん宿に戻った。

 ボス戦に向けての準備はほぼ整ったが、もう一つ、絶対にやっておきたいことがある。


「さて、そろそろ俺の本気の出番だな」


「……本気?」


 セリーヌが首をかしげる。


「そう、ガチャだ!」


 俺は腕を組み、ドヤ顔で宣言する。


「ボス戦前に少しでも戦力を上げておきたいし、運試しも兼ねて、ここで11連を2回引く!」


「うわぁ……カズトさん、またギャンブルしてる顔になってますよ」


 アルメリタが呆れたように微笑む。


「違う! これは戦略的ガチャだ!」


「はいはい、じゃあ早く引いちゃってください」


「うむ、いくぞ!」


 俺は鼻息荒くガチャ画面を開き、さっそく11連のボタンを押した。

 ガチャばかりは、何度引いてもワクワクしてしまう。

 ああ、このワクワクをなんとか共有したい。

 

 ガチャ画面が光り、エフェクトが展開される。

 レバーを引くと、カプセルが次々と排出され――

 カコンッ!カコンッ!カコンッ!……

 出てきたカプセルが徐々に開いていく。


「……お?」


 何やら金色に光るカプセルが混ざっている。


「おぉ!? これはSSR確定だな!」


「すごい! いい流れですね!」


「まとめて引いて、開けよう……!」


 再びレバーを引く。

 カプセルが次々と排出され――

 カコンッ!カコンッ!カコンッ!……


「……あっ……!?」


 今度は、一つ金色に光るカプセルが混ざっていた。


「SSRが2個か!これは、すばらしいぞ!!」


――――――――――――――――

C MP+10

C 力+3

C 魔力+3

C 敏捷+3

C 中級ポーション

R 風魔法

R 成長加速

R 静寂の砂

R MP回復ポーション

SR マッピング

SSR 魔法のポーチ

――――――――――――――――


――――――――――――――――

C HP+10

C MP+10

C 魔力+3

C 耐性+3

C 中級ポーション

C 中級ポーション

R 土魔法

R 水魔法

R 成長加速

R ミスリルのインゴット

SSR 魔法のポーチ

――――――――――――――――

「なんだ、魔法のポーチが2つ?魔法のポーチ、何かわからないけど、ちょっと、しょっぱい結果だな」


鑑定をする。


――――――――――――――――

【魔法のポーチ】

小型の魔法空間を持つポーチ。内部空間は 1m³(1立方メートル) の容量があり、小物や消耗品の持ち運びに最適。

取り出し速度が速く、ポーチの口部分を意識することで、中にあるものを自在に取り出せる。重量は完全に無視されるため、どれだけ入れても持ち運びの負担がない。ただし、生きているものは収納不可。

――――――――――――――――

「これは、パーティー全員分が欲しいレベルの神アイテムかもしれない……!」


 背負い用の【魔法のバッグ】とは違い、大量の物資を持ち運ぶには向かないが、戦闘時の補助アイテムの収納としては最高クラスの性能だな。また、中のアイテムの時間停止もしないようなので、保管には向かないことも注意しよう。

 ウエストポーチのように腰に巻ける形状で即時取り出し機能があるのは大きい。戦闘中にポーションを探してもたつくことがないし、石なども即座に出して攻撃に転じられる。

 さて……2つあるし、どう分けるか。


「よし、これは俺とアルメリタで使おう」


 そう言って、一つをアルメリタに手渡す。


「えっ? 私に、ですか?」


「ああ。俺は戦闘用として持つし、アルメリタも気配察知があるから、戦闘中にアイテムを取り出せるのは強みになるだろ?」


 アルメリタはポーチを両手で受け取り、じっと見つめる。


「……ありがとう、カズトさん!」


 彼女の目が輝いた。そして、嬉しそうに腰に装着し、そっとポーチの口を開いてみる。


「すごい……中が広いし、軽い……!」


 俺はその様子を見て、なんとなく違和感を覚えた。アルメリタがこんなに嬉しそうなのは、戦闘用としての便利さよりも――


「もしかして、こういうの欲しかったのか?」


「……うん。だって、今まで荷物はほとんどカズトさんのバッグに入れてもらってたし。自分の持ち物をちゃんと整理できるのって、なんだかすごく嬉しい……!」


 ――ああ、そうか。

 そうか、俺は戦闘での使い道ばかり考えていたけど、女の子だし、自分の持ち物を整理するアイテムとしても嬉しいのか。

 「そっか……」と呟きながら、もう一つのポーチを見つめる。


「……だったら、俺は戦闘用として使わなくてもいいかもしれないな」


 俺はふと、セリーヌの方を見る。


「これ」


ポーチを手渡す。


「えっ?」


「戦闘中にアイテムをすぐに取り出せるし、お前も持っておいた方がいいんじゃないか?自分の持ち物を持てるスペースは欲しいだろう」


 しかし、セリーヌはきっぱりと首を横に振った。


「いえ、これは和人様が戦闘で最大限に活かしてください」


「……そうか?」


「はい。私は盾役ですし、戦闘中にアイテムを取り出す余裕はあまりありません。今は個人の持ち物の整理より、和人様が的確なタイミングでアイテムを使える方が、ずっと有益です」


「うーむ」


 セリーヌは落ち着いた表情で微笑む。


「お気持ちだけありがたいです。アルちゃんの言葉を聞いて思いましたけど……自分の荷物を整理できるのって、やっぱり嬉しいので、次にでたらお願いします」


「セリーヌさん、しばらく、一緒に使おうね!たっぷり収納できそうだから」


 アルメリタがセリーヌの手をとって、一緒に使うと言っている。


「……そっか。じゃあ、今回はそうするよ」


 俺はポーチを腰にしっかりと固定する。

 これで、俺も戦闘時のアイテム管理が楽になるし、アルメリタも喜んでくれた。次も装備をセリーヌ優先する可能性が高かったし、アルメリタに渡せて良かった。


「あと、アルメリタのポーチにこいつは入れておいてくれ」


 俺は、ぬいぐるみ2つ(犬、狸)と中級ポーションを2つ渡した。


「あっ、ぬいぐるみだ!ありがとうございます」


 アルメリタがぬいぐるみを両手でぎゅっと持つ。可愛い。


「こんな貴重なポーション、私たちが持っていても良いのでしょうか?」


「もちろんだ。まだ、数に余裕もあるし、何かあった時にすぐに取り出せた方が良いので、持っていてくれ」


「ありがとうございます」


 やはり、ガチャはいいな。良いアイテムも手に入ったし、これからもガチャをモチベーションに頑張れそうだ。

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