第59話 公務員、ガチャポイントに歓喜
6階の階段付近に足を踏み入れると、空気が少し変わった気がした。迷宮の景色はこれまでと変わらないが、何か空気が重くなった――そんな感覚を覚える。
「よし、今日はこの6階の階段付近で、ここに出る魔物を確認したら引き上げるとしよう」
そう俺が言うと、アルメリタが少し驚いた顔をした。
「まだまだ、疲れてないですよ!」
セリーヌも頷く。
「私もです。まだ余裕がありますし、いけると思います」
俺も正直、もう少し進めそうだとは思う。だが、無理は禁物だ。
「まあ、そうなんだけどな。初めての迷宮なので、安全第一でいきたい。実はもう少し早めに切り上げようと思ってたんだ。でも、俺の石投げの検証につき合わせちゃったからな」
「そんな! 全然疲れてないですし、和人様と一緒に潜る迷宮はすごく楽しいです!」
セリーヌがまっすぐな瞳で言う。
「うん、私も楽しいです! 連携もどんどん取れる感じもして!」
アルメリタも満面の笑みで同意する。
「ありがとうな。ただ、切り上げる前にせっかく6階まで来たんだし、一つだけどうしても試しておきたいことがある」
「討伐ガチャポイントですね、カズトさん」
アルメリタが鋭く察する。さすが、よくわかってる。
「そう。今後の方針にも関わることだからな。できれば、ここでガチャポイントが加算されるかを確かめておきたい」
階段の近くを慎重に探索すると、ついに目当ての魔物を発見した。
「カズトさん、前方少し遠くにゴブリンとは違う、少し大きな個体……」
アルメリタが小声で伝えてくる。
「間違いないな。あれがゴブリンファイターか」
ゴブリンよりも一回り大きく、筋肉質な体つき。手にはボロボロではあるが、金属製の剣を持っている。
「ゴブリンファイターは、通常のゴブリンよりも格上の個体だ。知能も少し上がっていて、武器の扱いもそれなりにできるらしい」
セリーヌが説明を補足する。
「でも、今の私たちなら問題なく倒せますね」
「そうだな。罠の心配もないし、確実に仕留めよう」
戦闘は一瞬だった。
セリーヌが先手を取り、盾で攻撃を受け流した瞬間、アルメリタが側面から踏み込み、鋭い一閃を浴びせる。俺は念のため、エンチャント・火を付与した石を構えていたが、出番はなかった。
「……楽勝だったな」
「ええ。ゴブリンとあまり変わらないですね」
敵が消え、俺の視界に討伐ポイントの変化が表示される。
討伐ガチャポイント +1
12P
「よし!やった!!! やっぱり、ここからはポイントが入るんだな」
「やりましたね、カズトさん!」
「これで、次のステップに進めますね!」
狙い通りの結果が得られて、俺たちは満足した。
「じゃあ、戻ろう」
俺はマッピングスキルを開き、来た道を確認する。
「おお、すごいな。通った道がしっかり記録されてる」
迷宮は構造が入り組んでいるが、マッピングのおかげで帰り道が一目でわかる。特に帰り道に迷わないで済むのは素晴らしい。帰り道は、どうしても油断してしまい危険なので、嬉しいスキルだ。
「これは便利すぎるな……」
セリーヌが感心したように俺の方を見る。
「ええ。普段は常に周囲を警戒しなきゃいけませんが、これなら最低限の集中で済みます」
「マッピング、やっぱりすごいですね。カズトさん、頼りになります!」
アルメリタが嬉しそうに俺を見上げる。
「いやー、まさかここまで便利だとは思わなかったよ」
「ふふっ、カズトさんの能力、すごく役に立ってますよ!」
そんな会話をしながら、俺たちは最短ルートを進み、入り口へと向かった。俺たちは時間的にもかなり余裕をもって迷宮の出口へと到着した。
ギルドに到着し、迷宮で得た魔石を換金することにする。今日は数が少なく、全部で23個。ゴブリンファイターの魔石混ざってるけど、わかるのかな。
「こんにちは、和人さん」
いつもの受付嬢がにこやかに挨拶をしてくれる。俺も軽く会釈しながら、魔石を差し出す。
「ちょっと少ないですが、お願いします」
受付嬢は魔石を手に取り、さっと確認した後、すぐに手を止めた。
「……これはゴブリンファイターの魔石ですね」
「おお、わかるんですね」
俺は思わず感心する。確かに普通のゴブリンの魔石より少し大きい気はするが、正直俺には見分けがつかない。
「はい。大きさの違いもありますが、色の深さがポイントです。通常のゴブリンよりも濃い色をしているでしょう?」
そう言いながら、普通のゴブリンの魔石とゴブリンファイターの魔石を並べて見せてくれた。言われてみれば、確かに違う。
「すごいですね……まさにプロの仕事って感じです」
そう言うと、受付嬢は少し得意げに微笑んだ。
「ふふ、これが私たちの仕事ですから!」
受付嬢が魔石を数え終え、換金結果を伝えてくれる。
「合計で銀貨3枚になります」
「なるほど……まあ、こんなもんか」
ゴブリンファイターの魔石が少し高めとはいえ、数が少ないため、額もそれなりだ。普段100単位で換金していたからか、若干物足りなく感じる。
受付嬢が優しく微笑みながら、俺のギルドカードを返してくれる。
「ちなみに、6階に行ったばかりでこれだけ換金できるのは結構いい方ですよ。無理せず、安全第一でお願いしますね?」
「はい、気をつけます」
――すると、彼女は少し表情を明るくして、付け加えた。
「和人さんは、期待のホープなので。もし、6階以降のことについても知りたいことがありましたら、なんなりといってくださいね。私、応援しているんですよ」
……応援、か。
受付嬢としての社交辞令なのはわかってるが、やっぱり言われると嬉しいものだ。
「ありがとうございます。じゃあ、せっかくなので6階から10階に出る魔物と、10階のボスについて詳しく教えてもらえますか?」
「はい、もちろん!」
受付嬢は嬉しそうに微笑んだあと、ふと小首を傾げた。
「そういえば、まだお名前をお伝えしていませんでしたね。私はリネアと申します。迷宮のことで困ったことがあれば、いつでもお声がけくださいね」
「リネアさんですね。覚えておきます」
――その瞬間、背後からなぜか冷たい視線を感じた。
「……?」
気のせいかと思い、軽く肩をすくめてリネアさんの説明を聞くことにする。
「6階以降は、今までとは少し違った戦闘が求められます」
リネアさんは手元の書類を確認しながら説明を続ける。
「基本的に、6階から10階ではゴブリンファイターとゴブリンソルジャーが主な敵になります。どちらも戦士系のゴブリンで、個々の力も強くなっていますが、連携を取ることが増えます。特にソルジャーは盾を持っている個体がいるので、注意が必要ですね」
「なるほど、単体で戦うゴブリンじゃなく、隊列を意識してくるわけか」
「そうです。だから、戦闘時には敵の配置にも注意してくださいね。そして、10階のボスは――」
リネアさんが少し表情を引き締める。
「ゴブリンマジシャンになります」
「ゴブリンマジシャン……?」
俺は思わず眉をひそめる。
「ゴブリンファイターやゴブリンソルジャーに守られながら、魔法を使ってくる個体ですね。攻撃魔法はもちろん、支援魔法も使うため、戦闘が長引くと厄介な相手です」
「魔法使いがボスなのに、周りを戦士系が固めてるのか……嫌な構成だな」
「はい。特にファイアボルトのような火属性魔法を使ってくるので、防御を固めて挑むのが良いですね」
戦士系のゴブリンだけなら、俺の戦闘スタイルでも十分対応できるが、魔法攻撃となると話が変わってくる。ファイアウォールでしっかりと固めるとなんとかなるのか?
「なるほど、これはしっかり対策が必要そうですね。情報ありがとうございます」
俺が礼を言うと、リネアさんは嬉しそうに微笑んだ。
「いえいえ、和人さんのお役に立てたなら嬉しいです!10階層のセフティーゾーンまでいけることが冒険者パーティーとして、ひとつの一人前の目安になりますので、気をつけて頑張ってください」
「ふぅ……6階以降は少し気をつけないといけないか」
そう呟きながら振り返ると、そこには腕を組んで微妙な表情を浮かべるアルメリタとセリーヌの姿があった。
「……え? どうした?」
「……カズトさん、受付の人とすごく楽しそうでしたね」
アルメリタがぷくっと頬を膨らませる。
「え、いや……ただ情報を聞いてただけだろ?」
「それにしては、すごく丁寧に話を聞いていたような……?」
セリーヌもどこかじとっとした視線を向けてくる。
「そ、そんなことないぞ! ほら、6階以降の情報、大事だっただろ?」
「……まあ、それはそうですけど」
「ふぅん……」
二人の視線がじわじわと突き刺さる。
「……いやいや、誤解だって! 俺が信用して頼れるのは、お前たちだけだから!」
俺が慌てて雑でしかないフォローすると、アルメリタは少し頬を赤くして小さくうなずいた。
「……なら、いいですけど」
セリーヌも、まだ少しむくれた表情をしていたが、
「次からは、ちゃんと私たちにも先に相談してくださいね?」
と念押ししてきた。
「わ、わかったよ……」
正直、どうしてここまで拗ねられたのかわからなかったが、どうやら二人は俺が受付嬢と楽しそうに話していたのが気に入らなかったらしい。
――まあ、これからもギルドで情報収集は必要だから、今後は気をつけるとしよう。
「さて、それじゃあ、そろそろ宿に戻るか。明日も早くから迷宮に潜ろう」
俺はそっと安堵の息をつきながら、ギルドを後にした。
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