第33話 何者
それはお仕置き程度では到底済まされないことだった。裸にされて尻でもなんでも、真っ赤になるまで引っ叩かれたほうが百倍マシとも言える一大事だった。
十七年の時を生き、ついに見られた。自分に秘められた力。
魔力。
「ヴォルビリス隊長とかあの影騎士が使ってるもんと同じように感じた。見た目も雰囲気も、強さの度合いも」
ゾイドは真剣な眼差しで見つめてきた。
「ロゼ、お前ナニモノだよー」
少しばかりの恐れを孕んだ眼差しから逃げることはできなかった。どうせバレるウソなど付かず、正直に伝えるべきだろう。
「……実は私もよくわからないんです。小さい頃から使えただけです」
「ロゼ、お前――!」
「ほ、本当です! 信じて!」
手を胸に押し当てて訴えた。真剣みが伝わったのか、ゾイドは一度口を紡ぐ。
「気味悪がられるから使うなって叔母さんにきつく言いつけられてて。でもあの時は身の危険を感じて、隊のみんなも近くに居て……」
「誰にも見られてないと思ったから使っちまったってか……。つまり初任務の時も……」
下を向いて小さく頷く。実はあの時、迫るハウンドを前に一瞬だけ魔力を解放していたのだ。周りにゾイド以外の人はなく、彼女の視界からも隠れていたから。
誤解を生まないために、なにより彼女の信頼を失わないために目を向けた。
「でも、本当にあの時の一回だけです。チンピラに絡まれた時とか、ゾイドさんはいませんでしたけど巨大錆兵との戦いでも誓って使っていません」
どんなピンチに陥ろうと、人の目がある時は抑制していた。物心つく以前から気を付けていることだ。
ゾイドはため息を落とした。苛立ちを抑えているのか、コツコツと踵を鳴らす。
「隊長へはー? 言ってあるのかー?」
「いいえ、他には誰にも。ゾイドさんが初めてです」
「ふーん……」
合わせた手に汗がにじむ。もし彼女が他にバラシてしまえば終わりだ。ネリおばさんの忠告した通りの末路を辿るだろう。いやそれ以前に、ゾイドから冷ややかに軽蔑されることがなにより怖かった。
ようやく心を許せるようになったルームメイトに見捨てられるのは淋しい。
じっと上目遣いに目を向ける。ゾイドは迷った様子で金髪をわしゃわしゃと掻いた。
「あーもーじれってー! つまりルームメイトの秘密がもう一個増えたってことだろー。りょーかい」
「え、ええ!? 内緒にしてもらえるんですか!?」
「しょーがねーだろ。後追っちまったのはアタシだしー。それに洗濯とか掃除とか自分でやんのダリ―しなー。だからその捨てられたパンダみたいな目やめろー」
気持ちが晴れて、安堵感が押し寄せた。感情のままにゾイドを抱きしめる。
「わぁ~ありがとうございます~! ゾイドさんだ~いすきっ!!」
「ちょっ! おいっ! やめろぷたぷにー! ぷにぷにすんだろー!」
「い~んですっ!」
ゾイドは絡みつく腕から逃れると声のトーンを落とした。
「――ただ、これだけは言っとくぞーロゼ。うちの隊長に、ヴォルビリス隊長に隠し事はできねー。なんでかわかんねーけど、あの人は他人の秘密とか全部わかんだよ。お前のことも、たぶん全部知ってて遊撃隊に入れたんだ」
軽い衝撃を受けた。信じがたい話だが、ゾイドの目は至って真面目に感じた。
「正直納得したー。なんでお前みたいなふわふわした奴を武闘派のうちに入れたのか、ずっとわけわかんなかったからなー」
「……ちょっと話しただけで私の魔力を感じたってことですか?」
「だぶんなー。ロイヤルメイドは魔力を扱える。だからきっと、同じ魔力の気配がわかったんじゃねーかなー」
ヴォルビリスはローズドリスを説得してまで自分を遊撃隊に入れたと言っていた。リラの話した両利きという共通点以外にも理由はあったということだろうか。
おもむろに疑問を口にした。
「……いったい魔力ってなんなんですか?」
「アタシが知るわけねーだろ。隊長たちの魔力は王族どもから与えられたもんだが、お前とかあの影騎士のはまったくわかんねー。メルボイルの外から来た奴だって噂はあるがなー……」
初耳の内容に思わず聞き返した。
「聞いたことないかー? 昔から言われてんだよ、街の外の人間は特殊な力を使えるらしいってさー。でもロゼ、お前も生まれはこの街なんだろ?」
深く頷いたところで、ゾイドははっと頭を抱えた。
「てか! こんなことしてる場合じゃねー! 隊長が帰ってくる前にずらかるぞー!」
慌てる彼女に手を引かれ、逃げるようにして執務室を出た。
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