あみださま

　あの日、妄りにその言葉を口にした君は、だらしなさにかまけることもなく、苦しみすらも惜しまずに、じっとその先にあるはずの結末を指さしている。

　あゝぼくがマトモにつき合うこともなかったのに。みえぬ先のことだって見すえていられぬ未熟なぼくらに、だって如何にしてつゞけられたか。空をきるだけのぼくの憤りさえ、じわりひろがるくもの彼方までとおくとおく…。

　地にひろがる水田からみずみずしい稲穂が盛って、ぼくらをずっと先の方まで誘なうように青く揺らいでいる。

　その間をはしる畦道は背のひくい枯れ草をかいて、その辺りには、細く流れる静脈みたいな水がしたたかにのびている。遥か上の空にはった架線は、地平にたつ鉄塔の方まで悠々とつゞいて、曠野を大きくわかつ。

　その径の上、きみが愉快そうに振れると制服のスカートがひらり靡いて、雨蛙たちは一斉に喝采しはじめる。ぼくはそれを誇らしげに思うけれど、しかしのちにおとずれるやもしれぬ喪失に歩を囚われて仕方がなくなる。

　きみがあの地平の先までみつめて、歩きはじめると、ぼくは背ろからきみの手をとっていた。

　きみは無邪気な笑みを浮かべたままこちらを振りかえって、不思議そうに首を傾げる。ぼくは何も応えることもできずに、ただきみの手を力なくにぎって離さなかった。

　きみは香りだけをのこして、静かにぼくの隣まで来てくれる。そしてゆっくりとぼくの俯く顔をのぞきこむ。

　ぼくはきみのあたたかく小さな握力を感じとる。するとぼくの唇は急に力んで、目の奥に痛みすらおぼえるような弱々しい熱が込みあげてくる。

「ねえ、あみだくじしてみようよ」

　きみはなんの前触れもなくそんなことを言い放つと、ぼくらと並走するあの遠くの架線塔の方を指す。ぼくは赤こけた目元を隠すように咄嗟に手で拭ってから、ひとつ遅れてそれをきみとながめる。

　きみとぼく、隣りあった線をひとつ選んで、それぞれを指で辿ってみる。碍子と地線の交わって、そしてまた少し離れて、また近づいて…。

　徒然とのびてゆく地線があの群青に映えた入道雲にはいって、その裡にまぎれ、姿を消してしまう。まるで不鮮明なぼくたちの行方のように。

　ぼくは黄昏にきみの糸のゆくえばかりが気になって、終には自らの糸を見失ってしまった。ぼくがそこで足を止めても、気づかぬ様子で夢中に線をなぞるきみのうしろ髪。しぜんと繋いだ手もはなれて、ぼくはきみの体温を見失う。

「ぼく、もうかえるね」

　陽の傾きかけて、空に朱の滲んだ気色になると、きみは小さく別れの手振りをみせて、その径の先へと歩みはじめた。

　ぼくは身体を翻して、一度として背ろを振りむくことなく駆けだした。

　こめかみからつたう想いだけを、とりのこして。