ep.15 秘密

 パチン!


 本部長が指を鳴らした音と共に視界が白飛びした。



 そこに居たのは小さなツノと、小さな羽の生えたトルビーだった。


「ぼくっ!別に危害を加えたりする気はっ……」

「分かっている」

 食い気味に本部長が返す。


「吸血種、トルビー・メレン。個性魔法、"擬態"。45歳と言ったところだな」

「全部バレた……」

 トルビーは半笑いだ。


「え?45歳?!トルビー、おじさんだったんだ?!」

「そこかよっ!ボクっ、魔族なんだよ?そこは驚かないのかよ……!」


「知ってたよ、とっくに」

 トルビーはぽかんとしている。

 まったく、バレてないとでも思っていたのか。


 と、本部長が咳払いをした。

「吸血種で言う45歳は12歳くらいだな。あくまで身体の話だが」


「年下なんだ……ライム先輩と呼びたまえ」

「あくまで身体上。それはこっちのセリフだよ!トルビー先輩と呼びたまえっ!」

 いじけたように言ったトルビー。


 本部長は咳払いをして続けた。

「そこじゃないんだ、トルビー。見ての通り、私もライムも、君を信頼している。私に関しては出会ったばかりでと思うかもしれんが、老人の勘はまぁまぁ鋭いんだ」

 本部長はトルビーにウインクした。


 トルビーは苦笑いしながらなにか呟いていた。


 と、本部長が仕切り直した。

「問題はラズリスだ。彼女は魔族と因縁があってね」


「魔族と因縁って……?」

 俺が思っていた疑問をトルビーが口にする。

 

「話せば長くなる。というかその時がきたら本人から聞きなさい」

 気になるが仕方ない。


「まぁ要するに、ラズさんにはバレるなってことですね」

 トルビーの言葉に本部長が頷く。

 

「話が早くて助かる。多分ラズリスは、魔族はまだしも種族を偽ってるやつを魔対に入れることには反対だろうから」

「了解です。それで僕らは何をすれば?」


「とりあえず一旦、ラズリスとは別行動でやって欲しいことがある」

 そう言って本部長はファイルを1冊取り出してトルビーに渡した。


 受け取ったトルビーはそれを開いた。そのページには緑色の丸い宝石がついているブックマーカーが挟まっていた。


 本部長は先刻ラズリス姉さんから返された三角帽子を手入れしながら言う。

「それはおすすめスポットだ」

「ほう、おすすめ……」

 トルビーが、本部長の言葉をオウム返しにしたのだが……



「「いや、なんの?!」」

 トルビーと声を重ねてしまった。


 と、本部長はにこりと笑った。

「キミ達には経験を積んでもらいたい」

「ほう……」

 トルビーは困惑しながら渡されたファイルのページをペラペラとめくっていく。

 

 覗き込むとページは全て白紙だった。


「え?白紙?」

 俺が問うと、本部長がこちらを向いた。

「ライム、君には悪いがトルビーにのみ読めるようにさせてもらった」


 なんでだ……?

 まぁ文字すら見えないなら読みようがないが……


「えーっと、これはお返しします」

「あぁ、すまないね」


 トルビーはページを1枚抜いて本部長に渡した。

 その紙には一文ほど何かが書いてあり、俺は「呪い」という単語だけ読むことが出来た。



 と、本部長がトルビーから受け取った紙を折りながら言った。

「後進を育てるのも大切なことだ。キミ達には期待している。旅を経て、成長してくるのだ」

「りょーかいです」

 そう言ってトルビーは胸をぽんと叩いたが、俺はなんだか腑に落ちなかった。


「兄ちゃんのことは……」

 思わず口にしてしまった。

 すると予想に反して本部長が少し笑った。

「いずれ分かる。とにかくトルビーについて行ってくれ」


 またいずれって……と思いながらトルビーの方を向くと、本部長に同意するように頷いていた。


「とりあえず、行っておいで。トルビー、ライム」


「はい!」

「はい……」



 その後俺らは魔界対策本部への出入りの術式を教わり、本部長室を後にしようとしたのだが……


 トルビーがノブに手をかけたところで本部長に呼び止められた。

「分かっているだろうが、種族を偽るのは重罪だ。やるなら徹底するように」

「……はい」

 トルビーの返事は、覚悟が決まっているようだった。



 △▼△

 

「帰るか〜疲れた」

 そう言って歩き出すトルビー。


「いいのかな、旅なんて……」

「いいんだよ〜」

 おちゃらけたように言ったトルビーだったが、「あ、ひとつだけ……」と言って真面目な顔をした。


「……見たでしょ?「呪い」って」

 そう言ったトルビーの目は真っ暗に見えた。


「うん……」

 俺がそう答えるとトルビーはにこりと笑った。そして魔対を出る呪文を唱えようとした。

 

「……あ、イオラさんに用があるから先帰ってて」


「りょうかーい」

 そう言ってトルビーは術式を唱えるとパッと消えた。




「イオラさん」

 本の整理をしていたイオラさんが手を止めて振り返った。

「どうしたぁ?あ、所属おめでと」

 

「ありがとうございます。……実はその本、ずっと気になってまして」

「あぁ、これね」

 そう言って左手で浮かせていた本を閉じるイオラさん。


「……それ、魔導書なんですか?」

 俺の質問に、イオラさんは本を見ながら口を開いた。

「えっと、これは私がまとめたやつ」

「なら、魔術書なんですね」


 魔法関連の本は大きく分けて2種類ある。


 ひとつは女神様に授けられる「魔導書」。

 そしてもうひとつは人の手でまとめられた「魔術書」だ。


 イオラさんは魔術書をペラペラめくっている。

「私の個性魔法は"読解アナスィ"。手に持った魔術書に載っている魔法なら使えるようになる……わかる?」


「ん〜と、つまり……"炎球フォーガ"についての魔術書を持っていたら、"炎球"が出せるってことですか?」

「そう、そゆこと。さすが〜」

 そう言ってイオラさんは俺の頭にぽんと手を置いた。


 俺はイオラさんに頭をぽんぽんされながら言う。

「魔導書、見せてくれませんか?」

「いいよ〜」


「ほい」

 イオラさんから魔導書を受け取り読んでみる。あ、やっぱ便利そう。



 すると……

「ねぇライム、バック光ってるけど?」

 そうイオラさんに言われてバックに目をやると本当に俺のバックから光が漏れていた。


 バックの中を見ると俺の魔導書のあるページが淡く光っている。

 そのページを開くと見開きで"読解"について書かれていた。


「「え?」」


「ちょっと見して〜」

「は、はいっ」


 イオラさんは俺の魔導書を読み出すと、目の色が変わった。

「これ、"読解"の要点がまとまってる……!でも、ライムの個性魔法は"かきかえ"だもんね。"読解"は必要なら自分の魔導書に魔法を増やせる。って、読んだか。読んだだけでもしかして実践したの?!」

 そう言ってガシッと俺の肩を掴んでくるイオラさん。


「い、いや……なんにもしてないです」

 俺は急なキャラ変に戸惑いながら首を横に振った。

「それはそれでなんでぇ……?」

 2人であれこれと理由を考えていると本部長がやってきた。


「はぁ……いずれ分かると言っただろう?」

 これも「いずれ分かる」の範囲内なのか……?


 と、本部長はあくびをした。

「私はそろそろ寝るよ。今日はお開きだ」


 イオラさんが俺に耳打ちしてくる。

「ぶちょ〜、眠い時は機嫌が悪いんだよねぇ。だから早く帰った方がいいよ〜」


「わ、分かりました。また!」


 俺は疑問を抱えながら本部長達に一礼して、仕方なく本部を後にした。

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