ep.14 所属?
上機嫌に歩いていくラズリス姉さんに俺とトルビーはついて行く。
俺はヒソヒソ声でトルビーに話しかけた。
「いつの間に姉さんと仲良くなったの?」
「実技の練習、付き合ってたからな」
そういうことだったのか……
そういえばテスト前、トルビーはもちろん寝起きが悪かったが、いつもは早起きな姉さんも朝、すごく眠そうだった。
俺が寝た後にこっそり特訓してたのか……それは勝てないな。
……ん?付き合ってた?付き合ってもらったではなく?
そんなことを考えていると、トルビーが口を開いた。
「ま、ラズさんが僕のこと認めてくれたのはキッテスだったけど」
え、意外と前から仲良くなってる……
と、トルビーがなにか思い出したようにバッと顔を上げた。
「あ!そ〜だよ、あん時魔導書に呆けて修羅場に僕を置いてったこと許してないかんな!だいたい、ライムがあのゼシューとかいうイケメンヘラに捕まるから……」
「あ〜、ごめんって……分かったから……」
俺はばつが悪くなって話題を変えることにした。
……ん?イケメンヘラとは?
「そ、そういえば姉さん、テストどうでした?」
前を歩いていた姉さんが振り返る。
思ったより暗い顔をしていた。
もしかして俺たちに構ってたら成績落ちたのか……?
「実は……」
ごくり……
「実技、念願の学年1位でした!」
そう言うと姉さんはトルビーの手をバッと取った。
「トルビーのおかげだよ!ほんっとありがとう!」
「お役に立てて何よりっす!」
2人とも楽しそうだ。
かくいう俺は蚊帳の外だが。
というかトルビー、姉さんの先生ができるほど魔法の扱いがうまいのか……
「俺と練習してた時は本気じゃなかったの?」
「いやいや、本気だよ……魔法に加えて物理にも長けてるライムについてくだけで手一杯。僕が教えたのは繊細な魔力操作ね」
あーそういえば得意だったなトルビー。
前までは魔法が使えるようになりたくてトルビーと練習してたんった。
毎回魔力がなくなって俺が倒れるからトルビーに回復してもらっていた。
「ライムに魔力をあげるの、今でも相当集中しなきゃできないよ……まあでも、それのおかげで大分繊細な操作が上手くなったんだけどね」
「感謝してよ〜」
「こっちのセリフだ!」
「ほら、着いたよ!」
ヒートアップする俺らの声を遮るように姉さんが言う。
その声で図書館に着いたことに気付いた。
俺たちはそのまま図書館の奥へ行き、姉さんが唱えた呪文で魔対本部に入った。
「おかえり〜」
本棚を整理しながらイオラさんが出迎えてくれる。ふわふわした雰囲気の彼女はこう見えて中央図書館の司書でありながら魔対本部役員のエリートだ。
「なんでそんな不安そうなの?」
メガネの位置を直しながら言うイオラさん。
少しの沈黙。
その後イオラさんは納得したような顔をした。
「あぁ、ぶちょ〜なら起きてるよ」
姉さんは「よかった〜」と言って胸を撫で下ろしていた。
姉さんが本部長室の扉を開ける。
入るよう促され、俺とトルビーが部屋に入る。
姉さんも続いて入った。
「君たちならできると思っていたよ。ようこそ、魔界対策本部へ」
そう言って本部長は長い髭を撫でている。
「「ありがとうございます!」」
俺とトルビーは元気に感謝を述べる。
「2人は13才だったか、リエルの最年少記録は塗り替えられずだね」
兄ちゃんは12才で所属したんだなぁ。
俺は姉さんのコネといえばコネだからな。兄ちゃん、一体どうやって入ったんだろうか。
「さて、今日から正式に……」
本部長が言いかけると扉が開く音がして、イオラさんが入ってきた。
「ぶちょ〜、忘れてるでしょ?」
その言葉で本部長がすくっと立ち上がる。
おぉ、思ったよりだいぶ小さいな……
「そうだった、ラズリス、帽子を返してくれ」
「あぁ、はい。なんで貸して下さったんです?」
「んー気分?」
お茶目な人だな、本部長。
ところでなんの話だろうと思っていると、姉さんは被っていた大きな黒い三角帽子を本部長に返していた。
あ、その小説とかでよく魔法使いが被ってるような帽子、姉さんの私物じゃなかったんだ。
本部長がその帽子を受け取ると帽子がほのかに光り、少し浮いた。
少しして帽子がトンと音を立てて机に落ちた。
「そういう事か。よく分かったよ。ラズリス、席を外してくれ。イオラもだ」
「はぁい」
そう言って部屋を出たイオラさんに続いて困惑気味の姉さんも部屋を出る。
扉が閉まるのを確認すると本部長はゆっくりと椅子に腰掛けた。
少し経って彼は口を開いた。
「……ラズリス。盗み聞きは良くないんじゃないかい?」
「うっ」
扉の向こうから姉さんの声がした。
本部長は扉の向こうを指さすと指をパチンと鳴らした。
「うわっ!」
また姉さんの声がした。
その声は、喋っている時に"念話"を切ったようにプツッと途中で切れていた。
「さて。話を始めよう」
さっきまでの温和そうな声では無い。
低い、圧のある声だ。
「なにか隠し事をしているね?」
「……ギクッ!」
トルビーが反応した。
「「わかりやすっ?!」」
そう、本部長と声が重なった。
この人、ツッコミとかするんだ。
やっぱりお茶目……
というかトルビーの隠し事?
「まずはライム、君から当ててあげよう」
「へ?俺ですか?」
そう言うと本部長は俺に手のひらを向けるとくるっと上に返した。
すると俺のバックから魔導書が出てきた。
本部長はパラパラとめくると、ぱたんと閉じて机に置いた。
「あ、あの……」
俺の隠し事って魔導書?
本部長、いや魔界対策本部のメンバーには嘘をついた覚えは無い。
というか隠し事をした覚えがない。
と、本部長は手招きした。
「見てくれ、トルビー」
「ん?はい……」
困惑しつつ俺の魔導書を手に取り、パラパラとめくるトルビー。
最後まで見るとパタリと閉じて机に置いた。
「これは……」
そう言って苦笑いするトルビー。
「そうだろう?」
本部長も頷いている。
「……あの、なんなんですか?」
俺が聞くと、本部長はにこりと笑った。
「ライム、手を出してごらん」
言われた通りに右手をさし出す。
手元が淡く光ると本部長は頷いた。
「……キミだったんだね、ライム。魔導書は返そう」
キミだったってなんのことだ……?
というかほんとになんなんだ?
「……っ?」
本部長が俺の手を離すと親指がチクッとした。
親指からは少し血が出ている。
「ここに血判を」
言われた通り、自分の魔導書の最後のページに親指を押し付けた。
すると魔導書の周りが淡く輝いていた。
魔導書の表紙を見ると、魔法陣のような模様が白く光っている。
再度中を見ると最後のページに血判があること以外はなんの変化もなかった。
「本当になんなんですか……?」
「まぁいずれ分かる」
あぁ、そうですか。よく分からんなぁ……
聞いても無駄そうなので大人しく親指に付いた血をなめた。
「では、お待たせしたね、トルビー」
なんだか俺まで緊張してきて生唾を飲む。
「自分から言い出す気はあるかい?」
トルビーが踵を返し、部屋のドアを開けようとする。
「……っ!」
「悪いが、鍵をかけさせてもらった」
パチンと、本部長が指を鳴らした音と共に視界が白飛びした。
そこに居たのはいつもと違う姿をして、苦い顔をしているトルビーだった。
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