第4話 初戦闘

 【第四話】 初戦闘

 李先輩と雫理亜先輩率いる魔道部に宣戦布告してから二日後…、私は敵である雫理亜先輩のいる生徒会室に居た。

 「それで、相談っていうのは」

 「円珠先輩のことです。聞いてくださいよぉ、雫理亜先輩ぃ」

 「あいつの愚痴か。ん、聞いてやろう」

 雫理亜先輩が微笑みかけながら、そう言ってきた。雫理亜先輩は円珠先輩とはまさに頭の旋毛から足の爪先まで正反対、といった最高の先輩だ。私は入部してからのことを愚痴った。

 

―「来夢、やっけ。改めて新魔道部部長やっとる3年の堀川円珠や。よろしく」

 「今年から学園生となりました宇多野来夢です。私のマジアは・・・」

 「いや、言わんでもわかる。あんた瞬間移動できるんやろ?」

 「なんでそれ知ってるんですか⁉」

 「なんでって、エリナから聞いてるからなぁ」

 それまで円珠先輩の後ろに居たエリナがテヘっと舌を出してこちらにウィンクしてきた。

 「ごめぇん、来夢ってどんな子やって円珠先輩がしつこくってさ」

 「まぁ、隠すことじゃないし問題ないよ」

 そうエリナに返答してから再度円珠先輩の方を振り向く。

 「それで、部室はどこに?」

 「こっちや」


 そうして円珠先輩に連れられて私たちは、北棟3F突き当りにある物置部屋と化した教室に辿り着いた。

 「ここや。生徒会から正式に認められてないから、まともな部室も顧問もおらんけど」

 「部活って生徒会の承認がいるんですか?」

 「せや。まぁ、教師に頼めば空き教室の使用許可ぐらいは出るから、これでええねんけど。とりあえず入ろうや」

 そう促され中に入る。すると、新入生と思しき生徒が二名、くたびれた椅子に座っていた。さっきの娘たちだ・・・。

 「おまたせ。とりあえず自己紹介からしよか」

 「はじめまして!芸術の街・歌館(うたち)市から来ました東山(ひがしやま)檸檬(れもん)と言います!」

 檸檬と名乗るその少女はレモンイエローのショートヘアで、如何にも元気ハツラツとしていた。そしてもう一人の娘が立ち上がる。

 「あ、あの…。私今出川(いまでがわ)ももって言います…。よろしくお願いします。あ、出身も中学も檸檬ちゃんと同じです…。」

 檸檬ちゃんのそれとは対照的に、ももちゃんは随分と緊張している。ピーチ色のボブカットでおどおどしていて見ていて癒される。かわいい。つぎは自分の番だ。

 「はじめまして!洛都から来ました、宇多野来夢です。よろしく!」

 続いてエリナが自己紹介をする。

 「で、私が副部長の九条エリナ・アレクサンドレヴィチ!よろしくね!こっちの来夢とはちっちゃいころからの幼馴染なの」

 ひとしきり挨拶を終えたところで、円珠先輩が語り始めた。

 「うちはすでに名乗っているから省略させてもらうわ。んで、うちの部活やけど、知っての通り現魔道部に対抗するためにつくった部活や。別に向こうさんを潰したりとかじゃないけど。」

 ではなんの為に存在しているのか。円珠先輩がその疑問に答える。

 「現魔道部は、部内の治安維持のためにメンバーを選抜してる。そこのエリナと来夢もそれは体験してるわ。ほんでハブられた子らの選択肢の一つにするためにウチが立ち上げたんや。」

 創部の経緯を語る円珠先輩。その顔はいつもより真剣だ。

 「他地域からここに転入してる子らの中には、マジアで何かしら成績残さなあかんかったりするからな。その救済措置や。」 

 とここで一つの疑問が湧いたので円珠先輩に投げかける。

 「あの、一ついいですか?ハブられた子たちに対する救済措置っていうのは分かりました。ですが、現魔道部と対立するのは何故なのでしょうか?」

 いい質問や、とばかりにこちらを向いてニヤリと笑う円珠先輩。

 「そんなもん決まってるやろ」

 次に出てきた言葉は、私の予想とは遥かに違ったものであった。

 「私怨や、むかつくねん。雫理亜のアホは」―


 「相変わらずだな、あいつは」

 私の話を聞いていた雫理亜先輩はうんうんと頷いていた。

 「それで、そのあとは何があったんだ?」

 「そのあとはもう散々でしたよ。」

 

 ―「とりあえず、ひとまずの目標はマジアによる能力の全国大会。魔道大戦、これにでることや」

 「魔道大戦に出るのはいいんですけど、私のマジアは戦闘用じゃないですよ?」

 「んなもん大丈夫や。そういう人多いからこれがあるんや」

 そういって円珠先輩は机に、紫色の小型ナイフをすっと置いた。え、ナイフ?

 「いやいや!法に触れるのはいくら円珠先輩といえども良くないですよ!!」

 「あんたはウチをなんやと思ってるんや。エリナ、説明したって」

 「来夢、それから二人も。これはただのナイフじゃなくてマジア戦闘用の特殊ナイフ【対魔剣(たいまけん)】だよ。もちろん殺傷能力は無いから安心してね!」

 「つまり、マジア以外でもこれで相手にダメージ与えたらOKや」

 これは便利だ。

 「これ以外にも防御用の【対魔盾(たいまじゅん)】や遠距離用の【対魔弓】(たいまきゅう)だったりあるんやけど…」

 「ビンボーなこの部活にはそこまでの余裕はない、ってことですね!」

 檸檬がニコニコで答える。

 「お、新入り君は頭が冴えてるねぇ」

 「えへへぇ、それほどでもぉ」

 「でも口が過ぎとるな、罰と体力づくりを兼ねて外周20周、いってき」」

 檸檬の顔が一瞬にして絶望に変わる。開いた口が文字通り塞がらない。その後は結局、私たちも難癖をつけられ外周20周走ることになった。―

 

 「あれが部長って終わってますよ!どうにかして下さいよぉ、雫理亜先輩ぃ」

 「いや、そうはしたいが君たちは非公認部だ。私たちではどうすることも出来ん」

 「そんなぁ」

 「だから、愚痴だけはいくらでも聞いてやるよ。生徒会長たるものの責務だ」

 「雫理亜先輩ぃ、サイコーですっ!」

 そう言って雫理亜先輩に抱き着く。石鹸のようないい匂いが鼻を通る。

 「全く、うるさい後輩だ。だが嫌いじゃない」

 そう言って雫理亜先輩が私の頭を撫でてきた。至福のひと時である…。

 「るるるるぅああああいいいいいいいいむうううううう!」

 「やば」

 叫びながら生徒会室のドアを開けてきたのは、円珠先輩であった。

 「どこほっつき歩いとんねん!戻って練習や!」 

 諦めて、雫理亜先輩から離れて、すっと立ち上がる。

 「何かあったらまた来て、来夢」

 「雫理亜先輩…。もちろんです!」

 礼をして、生徒会室を後にした私は、12日間に渡る基礎練習に励むことになった。


「とりあえず、二人一組でペアになって練習しよか」

部室で体操着に着替えた後、運動部を避けるようにグラウンドの端で対魔剣を使った模擬戦をすることになった。

「じゃ、来夢。よろしくね」

「うん、こちらこそ」

はじめはエリナと組むことにした。ただいくら相手が友達とはいえ、緊張はする。右手に握りしめた対魔剣に少しずつ汗が付着していくのが実感できた。

集中、集中。

「ほな、はじめ!」 


開始早々、エリナはジグザグに走りながらこちらへと向かってきた。私のトゥリスタ―旅人―対策だろう。瞬間移動が出来ようと、予測が出来なければ意味がない。

「トゥリスタ―旅人―」 

エリナがこちらの喉元に対魔剣を当てられるまであと数十センチの所で、エリナの前から姿を消し、後ろへと回り込む。そこまではお互い想定済み。エリナはすぐさま後ろを振り向き、再び剣を振りかざした。

「もらったよ!来夢!」

エリナが攻撃を当てようとするその刹那、エリナの手元と剣に若干の隙間があるのを見逃さなかった。

キィィンッ、と激しい金属音が鳴り響くとともにエリナの手元から対魔剣が飛んで行った。この機は逃さない。

私はエリナの右足を踏みつけて逃げられないようにしてから、剣先を喉元に押し当てた。

「降参だよ、来夢」

勝負は、私の勝ちで終わった。初勝利である。

「今の勝負なかなか良かったで。二人とも凄いよかったわぁ」

 円珠先輩が関心している。

 「ほな、次は来夢と檸檬、エリナともも、でやってみよか」

 向こうも決着がついていたようで、勝ったと思しき檸檬がこっちに来た。

 「じゃ、来夢先輩!よろしくお願いします!」

 勝負はまだ終わらない。

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