使えないにも程がある

目を覚ました俺の視界に映ったのは、巨大な乳であった。

もうそれしか見えない。


ベットに寝かされた状態のようだ。おそらくここは保健室だろう。消毒液の匂いと、なんだか甘い芳香属の匂いがする。

ベット右の乳がない側から、泣きじゃくるアニメのマスコット見たいな声が聞こえてきた。


「よかっだー!ぎむら君ー!!」


かろうじて動く首をそちらに向けると、見慣れたクラスの女子がいた。

大きくて丸い目には大粒の涙を浮かべて、キラキラと輝く唇を噛み締めながら今にもクチャクチャに泣き崩れてしまいそうな表情をしていた。

府留千草ふどまりちぐさ』は、小学生の頃からの俺の親友だった。

昔も男と勘違いしていたが、制服を着ていなければきっと今も、少年と勘違いする人はいるだろう。

ショートヘアーの彼女は、俺の右手を強く握っている。じんわりと滲む手汗と暖かさが、千草が俺をずっとここで見ていてくれた事を物語っていた。くぅ~

やっぱり持つべきものは友だなぁ。


「木村君、ごめんねぇ、先生慌てて君の顔面に攻撃しちゃって……」


左の乳からも声が聞こえた、最近の長乳は喋るらしい。

りーちゃん先生の声に戸惑いの色が見えた。やはり、生徒をあんなにボコボコにしてしまったことについて後悔しているのだろうか。

フォローの一つも出来なければ、俺は男として失格だろう


「先生、気にしないでください、頼んだのは俺ですし」


長乳先生は眼前の乳をドカンと揺すると、立ち上がって俺の顔を覗き込んだ。


「それで木村君、あの時の事なんだけど……」

「はい、俺あの時、何か掴んだ気がします」


俺の『何かを留めているクリップを飛ばす』という『才』。

それがあの時、命の危機を感じた瞬間に『才』の再解釈という、いわゆる『深化』が起きた気がしたのだ。

自らの力を疑い、要素に分解し、再構築する。

そうして人間は古くから『才』を深化させてきた。


俺は自分の意識の深いところへ集中する。あの時俺は確かに何かを外した、そして先生は顔を赤くし、乳を長くし……。

その時、俺の脳と股間に電流が走る。


「俺の『才』、いまここで理解しましたよ、ええそれはもうくっきりピチピチに」


俺は千草の握っていた右手を優しく離すと、それから集中し、強く念じた。

俺の新たな『才』を今ここで。

突如、俺の顔を上から覗いていたりーちゃん先生のビックリするほど長い乳が、顔の上にドスンと降り注いだ。


「きゃあ!」


あの戦闘の時とはうって変わって、しおらしい淑女の悲鳴を上げた先生は、そのまま後ろへ飛び退いた。



そう、俺の『才』は、『何かを留めているクリップを飛ばす』から


『ブラのホックを外す』に深化したのだッ……!!



どうしろと!!しょうもない力が、しょうもない力に変わっただけではないか。

頭を抱えたかったが、左肩の負傷で片腕は上がらなかった。

これはまずい、非常にまずい。

そもそも『才』の深化を目指したのも、期末テストの赤点を取り戻すために、実技でよい成績を修めようと思ったからであった。

戦闘に役立つ力になっていれば、もうすぐ始まる『才育祭さいいくさい』の闘技大会で好成績を残せるはずだったのに……。

もし、まともな成績を残せずに、『才育祭』が終わってしまったら……。

その先の事は恐ろしくて考えたくもない、成績の悪い男の俺が、さらには『ブラのホックを外す』というとんでもないお下劣な力まで手に入れてしまったとなると『聖徒会せいとかい』もきっと黙ってはいないだろう。学園の総意として、退学させられる可能性だってある。

俺の目に諦めの色が見えたのだろうか、千草はそういう気配に敏感だった。


「木村君、その……まだ諦めるには早いよ!」


千草が俺の顔を腫れた目で見つめる。

俺がこの学園へ入りたかった理由。俺の親友、府留千草がまだ諦めていないというのか。

もし俺にまだ足掻く気力があるなら、このしょうもない力をうまく扱えたなら……。

まだ諦めるには早いんじゃないか。

千草に俺の『才』を使ってみたが、彼女の態度には変化がない。俺の『才』にはまだわからない法則があるのだろう。

一つずつ試してみよう、きっと何か攻略の糸口があるはずなんだ。

前向きになってくると頭がスッキリしてくる。

いや貧血だ、クラッとするの間違いだ。

それから俺は、眠るようにまた意識を失った。

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