異常能力にも程がある

ギガ肩幅担当大臣

異常能力にも程がある

未だ解明されない超常の力『才』

古来よりそれを振るってきたのは、一部の女達であった。しかし現在、少しずつではあるが男にも、僅かに『才』が眠っている事が明らかになってきた。


我が国『ジャポーン』では、女性の85%が有用な『才』を保有するのに対して、男性の『才』保有者は2%と非常に低い。

これを踏まえて、『聖戦闘セイントせんとう学園』は共学制度を導入した。



――その入学条件はただ一つ、『才』を保有している事である。――



夜の聖戦闘学園、その体育館にて肉のぶつかる音を響かせ交わる男女がいた。

勿論、いやらしい意味ではない。言葉通りの肉弾戦である。


女が軽く頭を振ると、男の攻撃で乱れた長い黒髪がサラサラと整ってゆく。

グレーのスカートスーツに身を包んだその女は、長すぎる乳房を揺らし男を威嚇すると、赤い逆ナイロールの眼鏡を左手で直した。その目付きはナイフのようにギラついており、およそ学園の先生とは言い難い殺意の波動を放っていた。


「おい木村、ひよってるんじゃねえ!」

「先生、ちょっと俺死んじゃいますって!!」


木村と呼ばれた男は、制服を血だらけにしながら、後ずさる。

そう、木村とは俺である。

先程は肉弾戦と格好よく表現したが、実際はほぼ一方的な蹂躙であった。

俺の攻撃は全く効かず、そして保健の先生こと『りーちゃん先生』の強烈な1-2コンボで、俺は戦闘開始2分で戦意を喪失してしまった。カップラーメンよりヤワである。

ここで俺の『才』について説明しよう。俺はこの力に名前をつけていない、恥ずかしいからだ。

『何かを留めているクリップを飛ばす』

俺の『才』はこれだけなのだ。

服に留めておいたヘアクリップは全て飛ばしてしまった。勿論、先生にダメージはない。

威力が弱すぎる。


「てめぇが『才』を深化させたいって相談しに来たんだろうがよ!」


確かに、この戦闘は俺の望んだものである。保健の先生であり、茶華道部の戦闘顧問バトルコモンのみんなのフワフワりーちゃん先生なら、俺に優しく丁寧に『才』の深化を教えてくれると踏んでいたのだが。

りーちゃん先生の『才』は『フェアリードロップ』と呼ばれている。

可愛らしい名前とは裏腹にその力はえげつない。透明な硬い何かを指定場所から指定方向へ飛ばすという、感知不能の攻撃だ。

既にみぞおちと左肩に攻撃を受けており、痛みで意識が朦朧としているが、りーちゃん先生の熱血指導は歯止めが効かなくなっていた。まさかあのゆるふわ先生が、こんな戦闘狂だったとは。

りーちゃん先生は右の手のひらを真っ直ぐ俺にかざす。


「早く深化しねぇと、てめぇの金○玉潰しちまうぞ!」

「ひ、ひぃ!」


咄嗟に飛び退くと、何かが俺の頬ギリギリを下から上へ掠め飛んでいった。バリンと音を立てて、天井の照明の一つが砕ける。


「やっぱ俺、深化の感覚つかめそうにないですよ!」

「筆記科目とか苦手なんで、実技で教えてください……って言ってきたのは、てめぇじゃねえか!」


先生の攻撃はあらゆる方向からバカスカ飛んできて、ただがむしゃらに逃げ回る俺の体力は限界を向かえようとしていた。何発もの弾が体のすぐ近くを掠める。窓ガラスが砕け、床には穴が空き、入り口のドアが大きく歪む。

接近しようとすれば前方からの攻撃、引こうとすれば後ろからの足止め。

攻撃の精度は良くないものの、立ち止まれば当たるところへ間髪いれずに連続攻撃を続けてくる。

逃げ惑うことしか出来なかった俺は、不意に足を取られた。少し前の攻撃で空いた穴につまずいたのだ。

ガツン。背中に衝撃が走る。

野球部員のパワフルな投球を食らったかのような、その強烈な痛みに俺は転げ回る。

呼吸が出来ず、声も出せない。

りーちゃん先生は床を舐める俺を見るとその攻撃の手をおろした。


「……ふん、簡単に負けやがって、今日はもう終わりだ、私は戻るぞ」


そう言うと俺に背を向けて出口へ歩き出す。

悔しい、こんな『才』しかない自分が情けない。床に倒れた俺は、先生の背中に右手をつき出す。ヘアクリップはもうない、先生は遠ざかって行く。

あぁ、走馬灯が見える。

元女子校への編入、ウキウキの俺、現実をつきつけられ、勉強も赤点……。

唯一俺の心を救ってくれた、先生のブラチラ……。

その時、何かをつかんだ気がした。

俺の中で、『才』への認識が変化する兆し。

『何かを留めているクリップを飛ばす』俺の力はもっと強くなれるはずだ。

そう、俺の力は留めているものを外す。

何もクリップだけじゃなくたっていいじゃないか。

最後の力を振り絞り俺は天に祈った。


「……外れろぉお!!」


ブルンッ

何かが弾む音が聞こえた(幻聴かもしれねぇ)途端に、先生は両手を胸にもって行く。

ゆっくりと振り返った先生の顔は赤くなっていたかもしれない。もしかしたら、目に血が入っただけかもしれない。

先生は自らの長い乳を押さえて……いや、なぜだかその時先生の長乳は、いつもの五割増しくらい長くなっていたと思う。

そうか、俺の『才』は、いまここで……。

その日、最後に俺が見た景色は、顔を真っ赤にしながらワナワナと震える先生の顔と、振りかざされた右手だった。


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