世、妖(あやかし)おらず ー蠢体虫ー

銀満ノ錦平

蠢体虫


 身体の中で何か蠢いてる。


 虫だ。


 きっと虫が身体の中で何か蠢いてるんだ。


 ずっと身体が痙攣している。


 頭、顔、耳、瞼、口、肩、腕、手、胸、腹、脚、足…。


 身体を這うように何かが潜んでいる。


 病気等では無いことは分かっている。


 何度も何度も何度も何度も…俺は、検査を受け…それでも異常はなかった。


 ストレスで自律神経が乱れてるかもと言われたくらいだったが俺は違うと思う。


 虫が…虫が蠢いてるんだ。


 今は頭がひくひくと痙攣している。


 虫が頭の中で俺を見ているんだ。


 蠢きながら俺の考えていること…思考を見ているんだ。


 俺の過去を…俺の罪を…俺の過ちを…。


 滑稽だと笑っているのかもしれない。


 …次は瞼だ。


 瞼が痙攣している。


 きっと俺の目を通して私が見ているもの…いや、見ていたを視ているんだ…。


 次は耳がひくひくとし始めた。


 俺の嘆きを…聴いているのだろうか…。


 どんな虫なのかは分からない…蟻かもしれないし、蜘蛛かもしれないし、蟋蟀かもしれないし、蝗かもしれないし、蟷螂かもしれないし、百足かもしれない…。


 いや、姿形などどうでもいいのだ。


 何かが蠢き私の中の何かを…きっと記憶だろう。


 私の罪を見定めている。


 そして罰を与えようとしているのだろう。


 そして次はお腹が痙攣し始めた。


 私のどす黒い本性を審査しているのだろう。


 ひくひくと…。


 そして足だ。


 足が痙攣している。


 きっと地を踏んでいたこの足でどういう行動をしていたのかを確認しているのだろう。


 見られている、眺めている、触られている、聴かれている…。


 俺は、布団の中で日々の流れを無視するように震えていた。


 いや、これも虫のせいかもしれない。


 身体中を這っているのかもしれない。


 私がやってきた過去を精算している。


 そうに違いない!


 でなければ私の中を蠢く理由がない。


 俺は罪を犯した。


 初めは、ただの痴話喧嘩による突発的なものだった。


 カッとなり、近くにあったワイン瓶で頭を殴打…彼女はそのまま動かなかった。


 そういえば…あの時も彼女は痙攣していた…。


 その後直ぐに動かなくなったのだが…もしかしたらあれも虫が蠢いていたのかもしれない…。


 その後の記憶はなかった。


 気が付いたら彼女は消えていた。


 逃げたのかと思い、俺は気が気じゃなかった。…がそうではなかった。


 飛び降りていた。


 勿論、警察などにも事情を聴かれたし彼女親からも罵詈雑言を喰らった。


 しかし結果は彼女の自殺になった。


 打撲後はあった筈なのにその事には言及されず、地面と接触した際の落下死であったと。


 俺は、その罪から背ける様に引越した。


 新しい土地で1から再出発したのだ。


 しかし新天地で始めたからといって、その罪が消えるわけでもない。


 残り続けるのだ。


 この身体に…この瞳に…この脳に…。


 心身的なストレスだと思うようにしたかった。


 ただどうしても止まらない。


 頭にも虫がいて、瞼にも口にも腕にも掌にもお腹にも脚にも…虫が蠢いているんだと…。


 もう幾年も経ってもそれが忘れられない…そして罪に悩まされる度にこの身体の虫たちが蠢く。


 いつ出るのか…一生でないのか…俺は、永遠に体内に…いや、この心身を蠢き私を陥れている虫と死ななければならないのか…。


 嫌だ。


 虫と散るのは嫌だ。


 俺は、もう首を出血してしまうほど掻きむしった。


 痛みなんて感じない。


 いや、感じてはいたがそれより虫を身体から出すことに意識を持っていっていた。


 喉に手を入れて、嗚咽もさせ、実際に吐いた…。


 吐いても虫は出てこない。


 当たり前だ、これは実際の虫じゃない。


 心にも蠢いているんだと。


 俺の心にも潜み、それが身体にも影響しているんだ。


 そうとしかもう俺の頭の思考は、巡っていた…いや、巡らされていたのかもしれない。


 そして俺は…もう我慢の限界だと感じ、包丁を手に持ちそれを心臓に刺した。


 楽になれる。


 死という救済が俺を導いてくれるんだと…神様が私を救ってくれるのだと…もう虫やこの罪の意識から逃げられるとそう思っていた…。


 刺したままの身体が倒れ込む。


 なのに何故かまだ意識が残っている。


 痛い…痛いのに身体も動かなかったが目がまだ生きていたのか視界がまだ視えていた…そして俺の胸から…





 虫が出てきた。


 それは蜘蛛のような形をしていた。


 六本足で足を交互に動かしながら心臓からデてきたのである。


 そしてその虫は俺を見て、


「やっと死んだ。」


 そう呟いて何処かへ去っていった…。


 それと同時に俺の意識もなくなった…俺はそこで死んだのだ…。













 俺は、目を開けた。


 何かの体内にいる。


 目の前にはシワの付いているピンクの物体があり、俺はなんの違和感も無くその中に入った。


 入った途端…其処には誰かが誰かを殺している映像が視えた。


 罪だ…これはしてはならない行為をしている…こんなとこ早く出たい…しかし外には出口がない…何処だ、出口は何処なんだ!


 俺はその中を蠢いた。




















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世、妖(あやかし)おらず ー蠢体虫ー 銀満ノ錦平 @ginnmani

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ