46.戦いの時
その後、昼食もとらず歩き続け、けれど疲れている足の疲労にも気付かずダンテのアパートに帰った。そのままベットでひとしきり泣いたアイリスは、泣きつかれて眠りに落ちていた。
「アイリス……」
かすかに聞こえる声に、アイリスは重たい瞼を開けた。
ダンテが心配そうにアイリスを覗き込んでいた。
「ダンテ……帰って……」
言いかけて、外がすでに真っ暗なことに気付いたアイリスは飛び起きた。
「ごめんなさい、夕飯の用意も何もしていない」
「そんなことはいいんだよ。それより、何かあったの?」
部屋着にも着替えずベットで寝ていたアイリスを心配していた。
「いいえ、今日は歩き過ぎて疲れちゃって。少し休むつもりが、すっかり寝入ってしまったみたい」
ダンテはアイリスの瞼が腫れぼったくなっているのに気付いたが、何も聞かなかった。
「武器庫まで見て回れた?」
「ええ。でもアンデの兵士が増えてる気がしたわ」
努めて冷静に答えた。
「そうか……やはりこれ以上延ばすと危険だな。明後日、必ず決行する」
アイリスはルーカスがここにいる以上、彼自身も明後日の作戦実行時に必ず関わってくると確信していた。
その事実に胸が痛かった。彼を愛しく思い、彼と戦いたくないという気持ちと、彼にこの作戦の何かがバレてしまえば、この国の二年の苦しみ、忍耐、思いが一瞬で無に帰す。
アイリスは比べることはできないことを比べては、ただ自分の胸の痛みと罪悪感が増していくのを感じた。
「王宮跡も見た?」
ダンテの問いにアイリスは頷いて答えた。
「きっと久しぶりに見たこのダージャ・ランツはアイリスにはしんどかったよね」
そう言って、アイリスの手を包み込んできたダンテの手を、アイリスは反射的に離していた。
ダンテの悲しそうな顔をアイリスの目線を捉えた。
「もう、昔の僕たちには戻れないんだね」
ダンテは悲しそうに言ったが、ここに戻ってきたアイリスの様子でそれはもう分かっていたことだった。
「ごめんなさい」
うつむき加減に謝るアイリスにダンテは笑顔で言った。
「謝らないで。今、アイリスは想っている人がいるんだね」
その問いにアイリスは小さく首を縦に振った。
「明後日、全てが終わったら話します」
今度はダンテを真っ直ぐ見つめて、アイリスがはっきりと言った。
「じゃあ、僕も君に話さないといけないことがある」
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