47.戦いの時

「暖炉もつけていないし、布団も掛けずに寝ちゃったら、凍死しちゃうよ」

 ダンテは暖炉に蒔を入れて、火をつけながら言った。

 二人は遅い夕食をとるためにテーブルについた。

「話って?」

 手元の食事に手をつける前に、アイリスは訊いた。

「そうだね。何から話せばいいのか」

 ダンテは少し考えている様子だった。

「サードの話をしたのは覚えているね?」

 アイリスは全く予想していなかった名前に、驚きつつも頷いた。

「彼は元々軍人だった。けれど今、抵抗戦線の最前線の指揮を執っているのはそれだけが理由ではないんだ」

 まだ全く話の意図が掴めないアイリスは、不思議そうな顔で聞いていた。

「この国には、優先指名者がいるんだ」

 初めて聞いた言葉に、アイリスは小さく首を傾げた。

「その書類は、本当にごく一部の人間しか知らされていなかった。有事の際に、もしも王を始め、要職に就く者たちに何かあった時に、臨時的に指名する者たちの一覧があった。各省のトップや一部の有識者、コサヴィック元学長のような人たちで、秘密裏に毎年更新されていたそうだ」

 アイリスは全く知らなかったその話に、ユーラのようなスパイに従事していた者たちの話を思い出した。

「この国は、国民の知らないところで、さまざまな準備をしていたのね……」

「武力面での増強は間に合わなかったが、危惧している人たちはいたんだ……」

「……サードが、その指名者なのね」

 アイリスの話の理解の速さは相変わらずだ、とダンテは感心した。

「ああ。選出基準の詳しいことはことは分からないが、省や有識者の推薦だったり、中には王が直接指名した者も含まれていたようだ。その一覧は首都陥落の前に、郊外に密かに持ち出され、然るべき場所に保管されていた。そして……」

 ダンテはそう言って、話を切った。

 スープはすっかり冷めている。

「あなたも入っているの?」

 アイリスが聞いた。

「いや、僕じゃなくて……君だよ。アイリス」

 ダンテの全く予想打にしなかった言葉に、アイリスは身体が硬直したように息を呑んだ。

「わたし……?」

 やっと言葉を出せたが、アイリスは全く状況を飲み込めなかった。

「僕もその書類をきちんと見たわけではないけれど、サードから連絡があったんだ。指名者は順番がついていて、有事の際、現任の要職に就いている者がいる場合は、もちろんその者たちが引き続き指揮を執るが、その補填要員には指名者リストの上から充てていくそうだ。……今回の戦争で要職に就いていた者たちはほぼ全員といっていいほど、戦死するか、捕虜となった。一部亡命した者たちもいるが、戦争後にこの国に戻ってきている者はいない」

 そして、一呼吸間置いて続けた。

「君は、五番目に名前が載っている」 

「五番目!?」 

 父親が省長であったこと以外は、大学を出て社会経験が数年しかないアイリスにとっては、自分がそのリストに入っていることも、そして上位に名があることも全てが驚きであった。

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