43.思いの先に

 アイリスは、ルーカスがポリシアを統治していく中で、アンデの制度だけに縛ることはできない、と言っていたのを思い出していた。

 今となってはルーカスの権力がどこまで及んでいたのかも分からない。ただ、彼の言っていたことのほとんどが、いや全てが正しかったのだろう、と今になって納得していた。


「アイリス、あと三日ある。明日は街を回ってみてくれないか」

 その夜、皆の話し合いが終わり解散した後、アイリスが眠りに入る前にダンテはそっと声を掛けた。

「街の道路や主な場所は変わっていないが、王宮は焼け落ちて今は公園になっている。他にも少しずつ変わった場所がある。王宮の前から開けていた商店通りは少し西に移動している。当日までに、自分の目で色々な建物の位置を一応確認しておいてほしい」

「分かったわ」

 アイリスは王宮の様子を思い出していた。

 他国と比べて、ポリシアの建物は華美な装飾を施さない傾向にあった。シンプルだが、なるべく寒さに耐えられるよう機密性を高くしていた。

 しかし、そのせいか火の周りが早かったと誰に聞いたのだろうか。

 記憶の中では、焼け落ちる前の王宮しかない。

 それがなくなっているという現実に向き合うのはまだ少し怖かった。

 大神殿は壊されてはいなかったが、中はもぬけの殻だったところを少しずつ復興を許されたと聞いた。アンデがポリシアの信仰心をどこまで許すのか迷っている様子が現れていると、アイリスは感じた。

 抑えつけすぎると必ず反動がくる。しかし、自由を許しすぎると、それもまた反抗する気力を与える。

 他国を支配するということは、支配する側もよくよく頭を使わないといけない。アンデの人間がどれだけそれが分かっていたのか……いや、ルーカスは少なくとも統治する難しさを実感していたのだ。

 そんなことを考えながら、アイリスは眠りに落ちていた。

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