第2話
「四半時前、僕は鞄を自分の部屋においたはずなんです。」
まずは巳代治の部屋をもう一度確認しに行った。金子と井上は旅館内を探しに行く。
押し入れの中、布団の中。
思いつく限りの場所を探していくが、思いも虚しく鞄は見つからなかった。
巳代治は血の気が引いていくような気がした。
「どこに消えたんだろ…。」
旅館内を探し回った金子がポツリと呟いた。
「もし自由民権派らに渡ったら…。」
井上も呟く。
伊藤らが憲法を作っていた当時、自由民権派がドイツ式の国家権力の強い憲法が作られるのではないかと考え危機感を抱いていた。
そのため伊藤達の心配も無理はない。
長い時間をかけて、議論し文字に起こした草案が自由民権派の手に下ればもう戻ってくることはないだろう。
四人とも酔いも冷め、すっかり青白い顔になっていた。
金子は隣で俯き、目を落ち着きなくキョロキョロさせる巳代治を見て驚いた。
何時も冷静沈着、どんな事があっても落ち着いて対応できる将来有望な官僚である巳代治がここまで落ち着きをなくし、取り乱している。
後に金子は「あそこまで取り乱した巳代治を見たのは後にも先にもあの時だけだ」と回想している。
「ちょっと周辺も探してみないか。」
夏の夜風が四人の間をすり抜けていく。
最初に沈黙を破ったのは井上だった。
「じゃあ手分けしましょう。」
巳代治の提案に三人は何も言わずに頷くと旅館を飛び出していった。
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