冬の帰り道
蜜柑
冬の帰り道
私、
彼は
これは、私と先輩との物語です。
***
朝、私(珠美)は、けたたましい目覚まし時計の音で目が覚めた。
「たまみー! 朝ご飯!」
「はいはーい、起きてますー!」
母にも二重に起こされ、やっとベットからでた私は大切な事を思い出した。
「お母さん! 今日夏彦先輩と帰ってくるね!」
「はいはい、楽しんでね(?)」
夏彦先輩とは、私の通う県立桜中学校の2年生のかっこいい先輩の事だ。
私の初恋の相手でもある。
想いの人と家が近く、週に1回位一緒に帰る。これ程幸せな事はない。
今日がまさにその日なのだ。
〜〜〜
授業が終わり、2年生の教室に向かった。
途中途中会う同級と挨拶しながら着いた。
「夏彦先輩! 今日一緒に帰りませんか?」
先輩はまだ気づいていないようだった。
「……でなつひこの彼女は可愛いのか?」
「うん、めっちゃ可愛いらしいぜ!」
……え? せ、先輩の彼女?
私がショックを受けていると、先輩が気付いた様でにっこり微笑み、いいよ、と言ってくれた。
微笑みでもやもやは少しだけ飛んでいったが……。
テンションだだ下がりだった。
〜〜〜
帰り道、先輩に聞き出すタイミングを伺っていた。
「でさぁ、今日田中先生が名言生んだんだよねー……? 珠美ちゃん? どうしたのぼーっとして」
まずい! 先輩に気付かれてしまった。
「あ、いえ! ただ今日の社会のテストが大変だったなーって!」
「なーんだ、良かった」
なんとか誤魔化せた。
しかし、もう家に着いてしまった。
あぁ! 楽しい時間が終わってしまう。先輩、行かないで。
「じゃ、また」
「はい!」
〜〜〜
月日は流れ、来週はバレンタインだ。
もちろん私は夏彦先輩に渡す。
だが、決定的な弱点が私の作るお菓子にあった。
私はとてつもなく不器用なのだ……。どうしよう。時間がない!
そんな事を思いながら『誰でも簡単!お菓子作り!』というレシピ本を開いた。
誰でも簡単とはどうやら嘘だったようだ。
〜〜〜
バレンタイン前日、夜な夜な私はお菓子を作っていた。
「……よし、完成だ!」
あぁ、間に合ってよかった! 明日、しっかり渡すぞ!
……何か、先輩彼女いるとか前聞かなかったっけ。
急に緊張してきた。
彼女がいるのならそりゃ私のお菓子告白なんて迷惑でしかない。
もしかしたら一緒に帰りのも迷惑だったかもしれない。
彼女が可愛いと聞いたから私なんて恋愛対象外なのかもしれない。
……先輩は私のことが嫌いなのかもしれない。
〜〜〜
バレンタイン当日、結局一緒に帰りたいなんて言い出せずに帰り道をトボトボ歩いていた。
せっかく作ったお菓子も持ってきていない。
先輩に迷惑だから、というのは言い訳で本当は、もうこれ以上嫌われたくない。
でも、心がズキズキした。目から水滴がぽろりと出た。止めようとしてもなかなか上手くいかない。
あれ……私、泣いてるの?
そんなわけない、私は先輩に嫌われたくないから逃げた卑怯者で、泣く資格なんてないし、泣いたって意味がない。
だって先輩にはもう、彼女がいて、私なんて恋愛対象外なんだから。
その時。
「た、珠美ちゃん!」
先輩が走って来た。何でだろう。
「先輩!? どうしたんですか?」
「どうしたも何も、……一緒に帰ろう」
「は、はい…」
先輩から誘ってくるなんて初めて。
前までの私なら大いに喜んだだろう。
でも今は、迷惑じゃないかと考えてしまう。
「で、昨日父さんがイギリスから帰ってきて……」
「私もイギリスとか行きたいです」
「そうなんだよ、父さんいつも連れてってくれなくてー……」
楽しい時間はあっという間に終わり、私の家の前に着いた。
………………よし。
「せ、夏彦先輩! ちょっとだけ待っててください!」
もう! 私ったら何してるの!?
そう思いながら階段をダッシュで登り、マドレーヌを取る。
下で先輩が待っててくれた。
「先輩、ハッピーバレンタインです」
恥ずかしー……。
「え、あ、実は……」
先輩が鞄をごそごそし始めた。何だろう?直ぐ振られると思ってたのに。
先輩が出したのは……。
不格好なカップケーキだった。
「父さんが『イギリスではバレンタインに好きな女子にお菓子をあげるらしいぞ』って言うから。はい」
「すすす好きな女子……?」
「そ、俺の好きな女子は、珠美ちゃん、君だよ」
「へ? だって先輩には彼女がいるんじゃ?」
「何のこと? ああ、
「え、あ、な、なーんだ! あははっ!」
「珠美ちゃん、好きだ! 付き合ってくださいっ!」
涙が出てきた。あぁ、カップケーキには落ちないようにしないと。
返事はもちろん、
「はい! 喜んで! よろしくお願いします! 夏彦先輩!」
【完】
冬の帰り道 蜜柑 @hana8772
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