第2話 颯爽と森を征くエルフ

 エルフの村は森の奥にある。


 この世界には人族も、エルフ族も、ドワーフ族も、獣人族だっているのだが、中でもワタシ達エルフ族は他の種族とは離れて暮らす。


 いや、別に、よくあるイメージの、

 『エルフはプライドが高く他種族と馴れ合わない』わけではない。


 単純に寿命の問題。


 エルフを除けば、1番長く生きるドワーフだって200年程度。

 人族と獣人族など、長生きして100年だ。


 対してエルフは?


 「○○さん、早かったわね。」

 「残念だわ。」


 こーゆー展開で、いいとこ5、600歳。


 長生きだと1000年以上生きるから、短命種への理解が覚束ないのだ。


 例えば蝉は、「地上に出て来て2週間」と言われていたが、実際は1ヵ月くらい生きる。

 蝉の1日はその生に対し、『30分の1』だ。


 対して人は『36500分の1』。


 人と蝉はわかり合えない。


 そして、エルフは『365000分の1』。


 わかり合えないのが当たり前。

 しかし、人から買いたいものもあり、たまに……

 それも10数年に1度だけ、交易を行う。


 それが人とエルフの関係だ。


 エルフの村には、魔法が上手でない限りなかなか歩いては来られない。


 そして、エルフ以外の種族はあまり魔法が得意ではない。


 ワタシ達エルフは森の奥で、他種族の干渉を避け生きていた。


 その日ワタシ、エルフのアイリは……

 森にハーブ類の採集に来ていた。


 エルフは趣味人が多い。

 一生が長過ぎるから、何か1つに集中し、他のことはしない。

 じゃないと、集中力が持たないのだ。


 ワタシは『睡眠』を研究する。


 たかが『睡眠』と言うなかれ。


 気持ちのよい『睡眠』のためには、肌掛け1つとっても材質や肌触りにこだわり、心地よく眠るための香りの研究など、考えることは山ほどある。


 エルフの森の回りはご多分に漏れず、魔物や獣が出るのだが、『狩り』にこだわる肉体派のエルフ達が、定期的に駆除しているので基本は安全……


 だけれど、ね。


 人間の子が眠り込んでいて、無事にいられるほど平和じゃないよ。


 その日ワタシは、森の中で大の字で寝る人族の少女を発見した。


 髪は短く切り揃えられ、男女の判定がしにくかったが、体型から『女』とわかる。


 いや、胸でかい、この子。


 そして、耳の形から人族決定。


 彼女は、行き倒れている訳では無かった。


 血色の良い肌。

 穏やかな寝息まで聞こえる。

 緊張感皆無。


 本来人族が入り込めない位置にいた遭難者?に、少しは焦っていたのだろう。


 【あの……

 ここ、寝る場所じゃないよ。】


 言ってから後悔した。


 ワタシが使ったのはエルフ語で、人族はエルフ語を解さない。

 交易のため、エルフ側が一方的に人の言葉を話す。


 第一声を間違えた訳だが、

 【うーん……

 あれ?ここどこ?

 エルフ?

 コスプレ会場?

 六甲山じゃないの?】

 なんと少女は、エルフ語をしゃべった。


 まだ寝ぼけているらしい、ぼんやりした表情……


 まさか、これは?

 

 【『界渡り』?】


 長生きなエルフ族だからね。


 ワタシ自身は若い方だが、年長者に聞いたことがある。


 ここじゃない別の世界から、『世界の壁』を跨ぎ訪れる者が稀にある。


 『界渡り』には、無条件で『言語理解』の能力が与えられる。


 そう。

 与えられた寿命の違い過ぎる人族に、エルフ語を学ぶ機会はたぶん無い。


 その日ワタシは、レア度から言ったらエルフよりレアな、『界渡り』を拾った。

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