あなたの一日、わたしの一日

@ju-n-ko

第1話 六甲おろしに遭う

 「うわーっ‼」

 

 家主様が騒いでいるよ。


 「また1日溶けたぁ‼」


 あー、またやったか。


 「快適な睡眠を研究しようとして、ちょっとハーブとか焚いてみただけなのに‼

 丸1日寝ちゃったじゃない⁉」


 ……

 いや、当たり前だよ。


 しかもこの方、もれなくドジっ子属性も持っているので、『眠り(麻酔)ガス』的なものでも発生したのだろう。


 うわーっ。

 家にいなくて良かった。


 村の共有スペースから持ってきた夕食の材料が入るのは藤編みの籠で、おしゃれ系のエコバッグと言うより、古き良き日本だ。


 私、森森里(モリシンリ)、13歳、中1。


 家主様は、アイリ、エルフ女子。

 年齢は知らん。

 エルフ的には小娘らしい。


 私、エルフの村に転移しました。


 六甲山が、異世界につながっていた件(笑)


     ☆     ☆     ☆


 私、森森里は『モリモリ』である。


 ……

 いや、なんでこんな名前にしたのか、実の親に小1時間ほど説教してやりたい気持ちだが、実はもう理由も何も聞けないんだよね。


 両親は亡くなっている。

 高速道路の多重事故で、当時2歳だった私だけが残ったから記憶にもない。


 親戚縁者とはほぼ交流がなかったし、引っ張り出された遠い親戚達も余裕はない。

 

 だから施設で育った。


 本人の落ち度のない巻き込まれ事故で、実は多額の慰謝料から死亡保険金から入ったのだけれど、後で気付いた親戚連中が手を挙げた時は遅かった。


 まっとうな判断をありがとう、お役所の人。


 ま、なかなか濃い13年を歩んできたのだ。


 森森里だから『モリモリ』。

 当然のニックネームだが、困ったことに私を『モリモリ』と呼ぶ人は、男女問わず一点を見ている。


 いや、亡き母の写真によれば、彼女も相当大きかったとは思うけど……


 胸がモリモリなんだよ、13歳なのに。


 小4くらいから育ち始め、小学校時代は男子に『牛』とか揶揄われた。


 顔は相応に幼い。

 ショートカットで目が大きい。

 顔だけ見れば小学生でも通る。


 でも、『モリモリ』。


 合法ロリ(実際違法も違法だ)な気配に、余計なトラブルに巻き込まれたのは1週間ほど前の夜だった。


 施設の門限ギリギリ(21時少し前)にコンビニに出かけた私は、誘拐の定番?ワンボックスカーに連れ込まれたのだ。


 ナンパするとか全くなく、本当に強引に。


 男達の『飢え』が伝わるような暴挙だが、しばらくして拘束(押さえつけていただけ)から逃れた私が、印籠のように出した生徒手帳で流れが変わる。


 「「「はっ⁉」」」


 こっちが『はっ⁉』だ。


 「中学1年⁉」

 「嘘だろ⁉」

 「中学の制服を着て歩く、痛い系の大人じゃないの⁉」


 最後のヤツ、痛過ぎるだろう、それ。


 「「「……」」」


 絶句。


 まあ、それでも一応、私は運がよかったとは思う。


 その辺の女をさらってスッキリしようとするアホだけれど、彼らは本気のアホでは無かった。


 「やばくないか、これ?」


 すでに未成年者略取(誘拐)です。


 「俺たち成人しているし?」


 あ、じゃ、名前は報道されるね。

 暴行目的で、未成年者を誘拐したクズって。


 「やばいやばいやばい‼」

 「会社クビになるわ‼」

 「俺だって学校がぁ‼」


 いや、もし相手が成人していても、強引にさらった時点でアウトだからね、お兄さん達。


 ギギギッと、錆びたロボットみたいな動きで一斉に振り返って私を見た。


 顔面蒼白。


 こうして、私は六甲山に走らせていた車から降ろされたのだ。


 これが有名な六甲おろしかぁ(←違うわ‼)

 

 その後、歩いて街に戻ろうとしていた私は、若気の至り、素直に道を歩かずに山中に踏み込んで盛大に迷った。


 お約束だった(笑)


 いや、笑いごと、ちゃうわ‼

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