Round2 -メロヴェの冠-

 前回は、フン族の圧迫により避退した後、ローマ帝国にも迫害されたことで、心が折れてしまった。

もう少し、自由に生きたい。

そう思って、林檎を囓ったのだ。



 再び目を覚ますと、そこはフランク王国が存在していた時代だった。

やはり、この林檎を囓れば1回に限らず生まれ変われるらしい。

つくづく不思議な林檎だが、実際私がこれに助けられているので、今は考えない事としよう。


 フランク王国。それはあのフン族による圧迫で西進してきた、いわば立場的には前世の私達と同じような民族、フランク族が建てた王国だった。

 フランクという名は、あの欧州をめちゃくちゃにしたカエル野郎の名前の由来となるのだが、それはまた別のお話。

 その国家は、ヨーロッパにおいてまだ強大な力を持っていたわけではなかったが、どことなく存在感を出していた。

なんと若いことだろうか。この国には、15歳で王に即位した少年がいたのだ。

名は、クローヴィス。

小さい内から見守っておけば、少しは結果が変わるかも知れない。今度は、彼を見守ってみようじゃないか。


 彼は、すぐに領土の拡大を始めた。

ガリアへと進軍し、かつて父が王だった時の同盟の相手国にも進軍した。

目的のためなら、容赦ないその姿勢。

正直人間としては恐怖すら感じるが、1000年帝国のためならば嫌いじゃない。

私が黙ってみていると、彼はその勢いを止めることなく進軍を続けた。

なんということか、最終的にはライン川からロワール川までの地域を服従させることに成功したのだ。

その東西、約700km。

かつてはベルリンまで追い込まれ、前は西ゴート族としてごく一部しか領土を持たなかった私にとって、これはあまりにも大きすぎる領土だった。

これなら良い。これなら……1000年帝国の実現も出来るぞ。

彼は首都をパリに置き、パリの復興に貢献する。

あのカエル野郎の場所に首都を構えるのは少々不快だが、これも1000年帝国のため。

まぁ、良しとしよう。



 しかし、この国には問題があった。

それは……宗教。当時、王であった彼を始め、フランク王国は異端派とされる、キリスト教アリウス派を信じていた。

では一般に信じられているものは何なのかというと、アタナシウス派。

簡単に言えば、アリウス派が「キリストは神ではなく、神に作られた人間である。よって、彼自身は神ではない」と言う主張。対するアタナシウス派は「キリストは神の子であり彼自身もまた神である」と言う主張だ。

 ヨーロッパでは、多くが後者を信じていたが、フランク王国は前者を信じている異端の国だった。各国への影響力を高めるには教会と近づくなどして、キリスト世界の国として認められ、孤立しないようにしなくてはならなかった。

 しかし、どうもクローヴィス本人は興味など無いらしい。

とはいえ、それではフランク王国がより権力を高めることが出来なくなってしまう。

そう言うときこそ、私の出番だ。


 私は、クローヴィスのもとにアタナシウス派の信者、クロティルドを近づけた。

「陛下、どうか私と約束をしてくださいませんか」

「……何じゃ。」

「どうか、アタナシウス派に改宗して欲しいのです。今となってはこのヨーロッパでは多くの民が信じており、ローマの民と理解を深められるにはこの改宗が一番かと。」

「……そうか。」

クローヴィスには申し訳ないが、これは全て私の干渉から起こっている「出来事」。

実際ヨーロッパの多くはアタナシウス派なので、どうにか改宗までこぎ着けて欲しい所だ。

教会を敵に回すと、それは結果的に欧州から孤立したこととなる。そうなれば面倒だ。

しかし逆に言えば、教会を味方につければ楽に影響力を強めることが出来る。

それが出来るならば、やるに越したことはない。


私は、クロティルドを介してクローヴィスに改宗をするよう促すと、彼はそれを承諾。

アタナシウス派に改宗し、ローマ教会と結びつきを強くするに至った。


508年のこと。

「クローヴィス1世。そなたに、「アウグストゥス」の称号を与える。」

クローヴィスは跪いて答える。

「ありがたく存じます。本当に、ありがとうございます。」

この年、クローヴィスはローマ教皇であるアナスタシウス1世より称号を得たのだった。

あぁ、やはり改宗して良かった。これで多くの民から王であると認められ、国はますます発展していくことだろう。

彼に感謝すると共に、今まで戦ってきた全ての同胞に感謝した。

教会堂を出て中央教会へと行進する際、

「コンスル万歳!アウグストゥス万歳!」

という歓声を得た。市民からも国王として認められ、尊敬するに値するようになったということだ。

本当に良かった。今までの道は、無駄ではなかった。

この日、彼はフランク王国の国王として認められ、栄華を誇ることとなった。

 この称号を得るまでの間にも、クローヴィスは様々な国に征服を実施、領土を広げていた。


 しかし、彼はこの後頻繁に体調を崩すようになった。

病に冒されていたのだろう、彼は日に日に弱っていった。

確かに年も取っていて、当時としては高齢になりつつあった。

かつて15歳で王となり、欧州の大国へとフランク王国を押し上げたその人物が、弱っていく。あまりにも見ていられない光景だった。

 他の誰かに加護の対象を変えることも検討したが、ここまで大きな力を持っているのはクローヴィスただ一人。

もう、彼の換えは効かないとよく分かった。

 仕方ない。仕方ないよ。

511年、クローヴィス死去。

換えは効かない。改宗して教会と結びつくようになり、欧州に輝いたあのフランク王国はもうない。

私の加護の対象が死んだのだ。

守り、共に1000年帝国を目指す者がいなくなったのだ。

……だから。

私は転生林檎を取り出して、囓ることにした。

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