魔王様と揺らめく姫

第34話

「っんだ、てめぇっ!」



視界に揺れる黒髪に違和感を感じる。


フードで挟まっている世界に揺れる黒に由良は眉をひそめた。



(慣れない……)



嵐神の倉庫の近辺は相変わらず荒れていた。


嵐神を潰そうとする人間。それにさらに便乗する人間。


しかもそのほとんどが揃って卑怯といわれる手口を使う。



今由良の目の前にいる男も鉄パイプを手にしている。


先ほど吹っ飛ばした男はカッターを持っていた。


他にも由良の周りの地面に伏している相手はみな武器が横に転がっている。


「五月蠅い」


叫んでばかりいる男の顔面めがけて足をねじ込んだ。


避ける気力も残っていなかったらしい。


後ろに回転をつけて伸ばした足は綺麗に男の顔の中央にめり込んだ。


少し鼻の形は歪んだかもしれないが折れてはいないだろう。多分。



どこで見つかったのか街には霞の気配もあって、由良は内心で辟易としていた。もう少し金髪はお預けだろう。


金髪だけで探されてるようだから、今のところは黒髪のままだ。


黒髪なんて何年ぶりだ、と由良はため息をついた。


(いっそのこと真っ赤に染めようかな……)



相手の男から奪った折り畳みナイフを手で弄びながら、由良はもう片方の手で黒い髪を一房持ち上げながら思った。



その刹那。



「っ!」


背後から感じた殺気とも気配ともいえるそれに咄嗟に身体をひねって避ける。


そのまま向かってきたであろうその気配の背後に回り込んだ。



「っと……、流石だな。捉えることの出来ない揺らめくお姫様ってのは」


ふっ、と笑いながら思わず突き付けていた折り畳みナイフごと由良の手が掴まれた。


緊張感もなく手の中からナイフを奪われる。


「危ねぇぞ」


ぽい、と刃がむき出しになったままのナイフを抜き取って、目の前の男はそれを放り投げた。


無駄に綺麗な顔をして、整った体躯をした男。


その男が投げたナイフが刺さったのは由良が蹴り倒した男の首のすぐ横だった。



ナイフの着地地点を視界の隅で確認して、由良は手を掴まれたまま距離を取る。


「誰」


見覚えはない。


霞の関係者ではないし、嵐神のメンバーも顔くらいならば由良はほとんど覚えている。


その中にも思い当たる人間はいなかった。


ただの嵐神を狙うグループなら由良のことは知らないはずだ。

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霞Ⅱ(近々書き直し予定) あやと @ayatoyura

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