第31話

「それは、どういう……」



困惑を浮かべる夏楓は情報担当ではなかったのか。


榊グループの令嬢として、一応の情報保護はされているだろうが、調べてわからないほどではないはずなのだが。


そこまで調べられていないのは、夏楓の実力がその程度なのか、ただのミスなのか。


これが嵐神が誇る情報担当でいいのか、と由良はじっと夏楓を見つめた。



一瞬目が合った後に、気まずそうに目を逸らされる。


いけないことを言ってしまったとでも思っていそうな顔だが、由良は大して傷ついてもいない。



「いまさら気にしないから。私はお母さんの連れ子だったってだけ。よくある話でしょ」


こんな世界にいればこんな話はどこにでも転がっている。そう珍しい話でもない。



「……君は、嵐神にも宇都宮の名前にも興味はないの?」


「それに何の意味があるの」


唐突に振られた質問に無機質な声で返す。



「俺は、俺たちは……………」


「嵐神は、上を目指したいの?」



どこを目指したいのか。


由良にはわからない。


霞で何かを目指していたことなどなかった。


霞にいたのにも意味はなかった。ただそこが居場所だっただけ。


霞は何かを目指していたわけではない。


ただそこにあっただけ。存在していただけ。


憧れも目標も信念もなかった。


それが霞だったから。



「……そうだよ。俺たちはまだ上を目指してる。誰にも負けない。すべてに認めさせてみせるよ」



にこり、と取り繕ったような笑みをみせる夏楓に、由良は「そう」とだけ呟いた。


「他のこと、見失わないでね。そこはゆきの居場所なんだから。守り通して」


(壊さないで)


由良はそう願うだけ。


居場所がなくなっては迷子になるから。


諌那にまたあの真っ暗でなにもない部屋に戻ってほしくはない。



あのとき捨てたのは由良だった。


これから捨てられるのは嵐神だ。


由良はそちら側ではなかったから、きっとその気持ちはわからない。


それでも、傾きすぎた天秤からは崩れるしかないのだから。

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