第29話
ゆっくりと、綺麗な形で頭を下げた女性に声をかけながら夏楓と由良は庭に降りた。
いつの間にか靴は玄関から庭先に移動されていて、用意がいい、と感心しながら由良は靴を履いた。
先に庭に出た夏楓に手を支えられながら。
(学校なら考えられない……)
もともとはこういうことをする人間なのだろうが、学校ではありえない。
由良は正体がよくわからない敵、諌那の主人ではあるからぎりぎり認知はされたものの嵐神にとって歓迎するべき人間ではないのだから。
遊馬としているときだってこんな態度ではない。
見ている限り朱理に対しても敬語ははないし、態度も崩れている。
暫く無言で道を歩けば、それなりに開けた空間にでた。
落ち着いた東屋のあるそこは、建物からも外の道からも見えないようになっている。
何かを言うでもなく、自然と東屋に腰を下ろした。
コの字型に配置されたベンチの真ん中に人二人分ほど距離を開けて座る。
夏楓は落ち着いた着物。
由良はシンプルな、ワンピースともいえるドレス。
その光景はどこか違和感を感じる不思議な光景だが、それを見る第三者はいない。
先に口を開いたのは夏楓だった。
「まさか、君が見合い相手だなんて驚いたよ」
ちらりと見たその顔は由良を見てはいなかった。
庭園へと視線を向けるその顔はすでに嵐神副総長の宇津宮夏楓だ。
「私も副総長さんだとは思わなかった」
だからこそ由良も視線を外してそう答える。
「君のことは調べたつもりだったけど、甘かったみたいだ。まさか榊があの榊グループだったなんてね。普段は娘がいる話なんて聞かないからすっかり除外していたよ」
零れ出たような笑い声は自嘲的だ。
「学生のうちは榊グループに縛られないように、っていうのがうちの方針だから」
榊という名字だけでつながらないのは当然だろう。
不自然にならない程度に情報にロックもかかっている。
「それにしてもまさか夏休みにこんなところでだなんてね」
はあ、とまるでため息のように発せられる言葉。
何度言ったら気が済むのだ、と由良は眉をしかめた。
本気で由良に会ったのが嫌なのか。
(宇津宮は確か、華道茶道武道、和の総本家って言われてる家だっけ?)
そう思い出せば納得がいった。
夏楓は学校でも比較的礼儀正しいというか動きにどこか整った様子が見られるし、喧嘩には武道のような基礎が混じっていた。
由良は一人でに考えては納得していく。
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