第28話

「私は大丈夫だよ、お父さん」


「そうか?じゃあ少し席を外すよ。では、行きましょうか」


意識して微笑みを浮かべれば、圭介は渋々ながら頷いた。


今はただの圭介ではなく、榊グループの会長として来ているのだから。


本当に危ないことでもあれば迷わず由良を取るであろう圭介は尊よりも公私をわけている。



「いやはや、榊さんの娘さんは噂通りでさぞかしご心配なのでしょうな」


「いえ、お恥ずかしいかぎりです」


三人は由良たちを置いて、案内されるがままに部屋を出ていった。


由良たちを背後に行われる会話は和やかで、いい対談ができるだろう。


お互いに子供を褒めるところから始まっている。


圭介は謙遜してはいるものの、その声色は嬉しそうなのが丸わかりだ。


由良は内心で苦笑した。


もちろん表にはだしていない。



この部屋には軽い軽食とお菓子、それにお茶が並んでいる。


きっとすぐに料理も出せるように支度はされているのだろう。


しかしこうなっては食事は先になりそうだ。


昼食というにはまだ少し早い時間。


むしろちょうどいいのかもしれない。



由良と夏楓は静かに顔を見合わせた。


部屋の入り口には着物を着た女性が真っすぐと背中を伸ばして立っている。


それでも居心地の悪さは感じないように配慮されていて、もちろん視線も少し外してある。


ただいつ何を言われても対応できるように待機しているだけ。


居てもいなくても変わらない、差支えがない。


が、この二人が榊家長女と宇津宮家長男である事実の中、榊由良と宇津宮夏楓という二人の高校生として話すには都合が悪い。



「少し、散歩をしませんか?この料亭の庭は素晴らしと聞いてますので」


夏楓の提案に由良は素直に頷いた。


「少し外に出てきます。二人で話したいのですが、よろしいですか?」


夏楓が入口に立つ女性に声をかければ優し気な笑顔で頷かれた。


「もちろんです。存分にお楽しみくださいませ。何かあればここにおりますので」


「ありがとうございます」

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