第9話

「はっ、狂犬一人かよ」


相手の人数は10人。


見たところ強そうでもないが、一体どこから自信がわいてくるのか。


余裕の表情を見せている彼らの前で、諌那の口が弧を描くのが見えた。



そこから勝負が決まるのは一瞬といってもよかった。


諌那が相手の拳を躱して、蹴り殴る。



「ちっ」


諌那の拳を避けた男がその勢いのまま由良を視界に入れた。


まっすぐ由良に向かってくる男を目の端で捕らえながら、その後ろの諌那へ視線を向ける。


男の後ろから伸びてきた長い腕に襟首をつかまれて、ぐえっと声が聞えた。


「さわるな……」


自分の目の前まで持ってきた男の腹を蹴りつけて同時に手を離せば男は飛んでいく。


向かってくる男たちを殴って蹴って飛ばしてまた殴る。



「かえれ」



唸るような声で諌那が言えば、ボロボロになった男たちは後ずさるように逃げていった。



「……嵐神に絡んでくるのは雑魚が多いね」


逃げていく男たちを見ながら由良はぼそり、と呟いてみる。


諌那にしては手加減しているほうだ。


それなのにここまで力の差が明確になるとはどれだけ弱いのか。



邪魔ものがいなくなって満足げな諌那が由良に手を伸ばしてきた。


手を繋ぎたいということはわかる。


期待に満ちた眼差しに思わず由良も手を差し出しかけて、止めた。


あげかけた手を途中で止めたのは、視界の端にいつもより短めの茶髪が見えたからだ。


今の由良は男装中。


この格好で諌那と手を繋いで歩くのは流石にまずいだろう。


嵐神の幹部と王子が手を繋いで歩いていた、なんて噂が広まればめんどくさそうになること間違いない。



「この格好ではちょっと……」


やんわりと断ってみれば、あきらかにがっくりと肩を落としてしまった。


「ん」


繋ごうと差し出された腕は下げられたものの、しょんぼりと垂れ下がった耳と尻尾が見えてしまう。



「瑠璃と睦月も誘って遊びに行こうか」


最近あまり会えていないし、という由良の提案に諌那は首を縦に振った。


「ん。いくっ…。ごしゅじ、と…おさんぽ…っ!」



(お散歩っていうとほんとに犬みたいなんだけど……)


と前にも言ったことがあったが、何度言っても散歩と言う名称は変わらなかった。


そこまで犬になりきらなくてもいいのに、という由良の訴えは受け入れられない。


「二人にも確認してみんなが空いてる日教えて」


こくりと頷いた諌那の頭を背伸びをしながら撫でてやる。


諌那は自分から中腰で頭を下げて目を細めた。

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