18Peace 「紹介と飯テロ」

「先に食べてもいいか?」

「ああ……」

 ローラは俺の話の先を急ぐ気持ちとは裏腹に、こうして食器を触る手が先立つ。それも口より流暢に。

「食べてるところ悪いんだけど、その、ジェシカの得意魔法について聞かせてくれ」

 そう言うとローラは少し、走る手を止めて肉の山のヨリに顔をのぞかせて言う。

「なんだ辛抱溜まらんという感じだな」

「まあ」

 それだけを言ったローラは食事を始めた。それはこの村? の長に納まる人間の見せるテーブルマナーだとは思えないほど汚かった。

「お待たせしました」

 そう言って同じウエイトレスが俺の分の料理を運んできた。

「こちら、じゃがいもグラタンになります」

 俺の分はこれだけになる。匂いや表面のこげ目からも美味しいことが伝わってくる、ふりかかった粉パセリが彩りを良く食欲を引き立てる。しかしくやしいのが、吸血鬼に味覚がないことだ。

 ただただ、俺はスプーンを手に取ってホロりと、グラタンの表面をおおうチーズをさし崩す。

 すくい上げたマカロニ、じゃがいもの潤いがみるだに伝わってきて、あつあつ故のゆげが香りを運んでくる。

 口に入れて気づくのは、意外にシャリシャリした食感があることだ。人参だった、刻み人参がアクセントになっている。人参はじゃがいもらより煮込まれた時間が違うように感じた、別の鍋で煮込んだのだろうか出汁が染みている。

 味覚はないけれど、嗅覚からどのような味わいがあるか容易く想像できる仕上がりだった。

「美味しい」

 思わず口走る。

「分かるか! ここの美味しさを!」

「……まぁ」

 事実を鑑みるにそう答えることしかできないのが、少し俺自身にも切なく感じた。

「こんな豊富な食料、あるところにはあるんだな」

 俺は不思議に思ったことを聞く。ローラの注文といい、食料の豊富さには凄まじい水産農家の技術力が伺えている。

「ああ、これはクレア穣の……つまり私たちの知恵の源泉たる彼女から伝来した技術によるものだ」

「彼女?」

「そうだ、さっき言ったが、そのうち紹介するという彼女だ」

 言われて頷いた。そうか、そんな人もいるのか、農業のノウハウをもった人、かつ演奏技術に造形の深い人がココにはいるのか。

 俺は驚いた。

「ちなみにあの演奏に使う楽器は、そのクレア嬢が作ったものだな」

 そう、自慢げに語られる。

「それはすごいな」

 これもまた唸らせられた。

「余談だったかもな、ともあれ主題はジェシカの方だった」「私も勝てるか分からない、そう言ったレベルでアレは天才なんだ」

「アレの得意技として、時空魔法と新拓魔法を使う」

「しんたく?」

 俺は聞いた。

「そう、新拓。近代的に開拓された魔法を言う、確立されていない未完成の魔法の総称でもある」

 そう言って自分のことのように張り切ったことを言うローラの顔は、肉の山のせいで見えていない。

「……それは使えるのか?」

「当たり前だ、なにせジェシカだ」

「天才だから、本人はそう言われることを拒んでいるみたいだけどな、ありていなことを言ってしまうようでもある」

 天才、そう言われることが嫌いなことは、戦って少し、推し測れた気がした。けれど、あの吹雪の中でのジェシカの顔はあまり思い出せないことに気づいた。

「そうといえば、あの冷気はなんだったんだ?」

 そう、確か「神託よ来たれever the Kokyu Toss」と唱えていた。難度が高いことを如実に知られる、同時に思想のよく出ているセリフだったと思う。

「あれは祈願魔導という、普段は俯瞰して無干渉を保った、如何様な形でも崇拝された名だたる上位存在に助力を求める手法のことだ」「それは魔に導かれるに等しい」

 言われて、しゃべりながらでも圧倒的な速度で消費され胃袋に入っていく肉の山を見ながら、また深く言及する。

「それは魔法とどう違うんだ? つまり、比較する材料としては魔法はどういうものなのか。という質問になる」

「横から失礼、それは私から答えさせてくれ、この頭脳に」

 そう言って、礼儀正しくそしてなにか鼻につく言い方をする声が。話に割り込む。


 後ろから聞こえたのだ。ローラに視線を向けるでもなく、ただその主は俺の横を通るとレストランの椅子をカッと寄せてきてぱっと真ん中をうつ伏せにするような肘で陣取って座る。

「相変わらず傲慢な態度だな、クレア嬢」

 少し声の明るくなったローラは親し気なことを言う。

「山ごもりは毎度有益なようでご苦労」

 二言目にはその少女は嘲り気味に皮肉る。その姿はロリータだった、その姿は少し、そこに居ながらそこに居ないような雰囲気をまとっている。それが反対に存在感を放っている感じだ。

 そう、彼女はあの「ワルキューレの騎行」を演奏した演奏団の指揮者だ。

「それはそうと、凄かったよあの演奏」

 ローラはほころんだ笑みで賞賛を送った。

「ローラこそ、何人のならず者らを片付けたんだ?」

 そこでローラはわざとらしく顔の横に手を持ってきて手のひらが上に首を振る。

「さっぱりいなくなってたよ」

 そう言うが嬉しそうな顔はしていない、けれど確かローラは戦闘狂だったはずではないだろうか、それこそジェシカのようなやり過ぎても許される相手ならヤってしまうような雰囲気があると思ったが。

 それでいて、この話に出ている「ならず者」とは山賊や盗賊の類いだろう。やつらはどこにでもいる。さっぱりとは全くとは違った意味合いで全ての山賊がいなくなった訳では無いといっているのだろう。

「しかしだからこそ油断は禁物だ」

 そう、言い続けた。

「やつらのコミュニティは大きい。私から見ても尊大な態度に見える図体のデカい組織が出来てる」

「それがこの地を離れたということはそういうことね」

 クレア嬢がローラの話の続きを言う。

「つまり私たちの見解は一致したということね」

 二人は言った。俺を見て。

「もうすぐ吸血鬼グールのスタンピードが来る」

 つまりならず者同士のコミュニティでは情報が共有される。対してこちらはその意味で鎖国状態、ならず者の動きはイコールで事件の予兆になる。

 すぐさまローラは腕を組んで、物々しく険しい顔になる。

「軍備の強化が必要だ、村中は嵐のようになるぞ」

「ティネス、頼みがある」

 そう言われて俺は心臓が高く跳ね上がる。頭が冷えて不安に苦しくなる。

らを殺してくれ」

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