17Peace 「その後食卓で」

 その時、アイスランスが壁をした。アイスランスは飛行中からも一つ削れるたびに補充されていたので驚くことではない。それは俺の大剣の攻撃で簡単に破壊される。すると氷の破片が散る中でさっきのナイフの行方が知れる。ジェシカはなんとあの姿勢から躰を三回ひねりをしナイフを避けきっていた、しかし俺の大剣が襲い掛かる。それは極めて格闘術的な歩法「シャドーステップ」によって後退し間合いを離れることによって回避される、しかし大剣の影に潜んだチャクラムは大剣の剣背を離れジェシカを仕留めようと甲高い風切り音を立て真っすぐに向かっていく。

「アクセルワープ」

 その詠唱は早かった。はっきりそれを見たのは実質初めてだった、今まではジェシカの体で隠されていたから。ここで初めて全身の空間移動をすることでその空間の歪み、ワープの残影ともいえる姿がこの目に明らかになった。

 

 十中八九、背後を取るだろうと予想した。さながら影踏みの追いかけっこのように。そしてそのワープは実際に俺の背後を取った。影踏みのように。その背後に向けて投擲したナイフやチャクラムの軌道を逆方向に反転させる。言うまでもなくナイフらはジェシカのワープに間に合うことはない。しかし、俺が操るのはそれら武器ではなく、影だ。

 ジェシカは俺の背後を取った。そして影を踏んでいた。予想していたからジェシカのワープとのタイムラグはない、俺の背後でジェシカは激しく、俺の首を狙った攻撃を妨げられていた。

 腹や腕を、および肺や心臓を、ジェシカは俺の背後にワープしたとき逆杭により串刺しにされていた。息は絶え絶え、血は滴る。

 俺は勝利の躍動感によって抑えきれずほころんだ微笑みを浮かべる。

 俺がその場で振り向くと恐ろしく感じた、それはジェシカから首へ向けられた攻撃、固く作られた手刀の指先には絶対零度の冷気がまとわれていたからだ。それは寸前まで俺の喉をとらえていた。

 演奏は華々しく、ここで管弦楽器たちによる不安を助長するような音の連続によって幕を閉じた。その瞬間、俺はまた人を殺してしまったんだという恐怖でたじろいだ。

 

 俺は必要がないと判断しナイフらを制止させていた。それは間違えだったかもしれない、否結果は変わらなかったかもしれない。

 次の瞬間には氷作りの一匹の竜が空から鷹のように落下してきた。風圧は俺を威嚇するように感じた。それはさっきのより大きく見え、俺の視界を埋め尽くした。目の前で、それが膨張しそれは自ら原形を破壊した。

 爆風が俺の体を吹き飛ばす。氷結の爆煙がこの空間のすべてを包み込んだ。本当に世界が吹雪に支配されたかのような瞬間だった。綺麗だと、感じたほどの景色だ。

 俺は幾許かの時間少しの距離を飛ばされると、体制を立て直す。肌に触れる氷の粒がわずかな切り傷をつくっていく。それに2つの腕で顔を覆った。

 冷静に、俺は今の状況を整理しようと努めていた。しかし遅かった。


 風上の彼方から、決闘が始まる前に見たあの氷の中國刀が風に乗り螺旋に回って降ってくる。それをみて初めに奇妙だと感じて次の瞬間に理解する。

 まだジェシカは死んでいない!

 彼方から降る中國刀はすごい勢いで迫る。俺は余裕をもって対処しようとする。しかし俺は失念していた、こんなにも策略家なジェシカはそれすら許してくれることがないことを。

 中國刀は確か二振り、作られていたはず。あとから作ることもできる、そう考えると一振りだけがあるのはおかしいそう気づくことができたとき、真下から中國刀が生えてきた。

 俺は最初、迅速さを規すために素手の手刀で対処しようとしていたその瞬間、さきほどのジェシカの手刀の様子が蘇る。そこで影から武器を作ろうとするが、吹雪の中では影が存在できないことを知り、慌てて2つの中國刀を回避する。

 尻もちをついた。その瞬間あの空間の歪み、時空の残影が吹雪にまぎれて現れた。ジェシカの姿だ、それを認識したころにはもう首を、手に握られた氷柱つららで押さえつけられていた。


 視界もままならない吹雪の中で、アホも用量えず両手を挙げて宣言する。

「降参だ」

 俺は負けた。



 場面は変わってその日の昼食、俺はローラと二人でランチしていた。ローラが言うにはこうだった。

「ジェシカは、私が聖の歩兵だとしたなら、時空の騎兵だ」

 と、談。

 あの後、俺は歓迎される形でこのローラの住む国に。ローラが言うには村らしい、に入国? させてもらっている状況だ。ランチはそう、勢いに流されてだ。「まあまあ、国家権力に拘束されるよりは……ね。ランチいかないとだよな!」そんな拐かしのセリフを嬉々として言ってしまうローラは、またやはりあのジェシカと同質の倫理の観念を持っているのだろう。

 しかしまあ、こうしたこの後のことを考えると関係性について良好にいるには、ジェシカに負けたことは顔を立てるという意味合いで、よかったのだろうと考えた。同時に負け惜しみであることを自覚する。

 とはいえ、食事の雰囲気は和やかだ。

「何から話そうか、なにから聞きたい?」

 そう言い、机の上で両肘をついて拳を包んで顎を乗せる格好をした。

「まずは、あんな強さの人間はどれくらいいるのか、普通にいるものなのか。聞きたい」

 へんな質問をしてしまったと自覚する。

「うん、その話をするにはジェシカの実力について言及する必要があるぞ」

 明るい声ではあるが、言葉の端から責任感の強さが見えてくる。必然、威厳のような感情が伝わってくるようだった。

「ジェシカは、ああいう新人狩りみたいなことをやる常習犯なんだ」

「それでいて実力は確かだ。すくなくともティネスのように相手が吸血鬼でなくても盛大にやっても今までに一人の死傷者をだしていない。どれだけ盛大にやらかしても一人もだ。というのは重傷者すら出さない程度の加減が効いていることを意味している」

 物損すらない。とローラは話す。

「だから普段、決闘法を立てて固く禁止しているが、ジェシカのああだけは例外にしている部分がある」

 とここでウぇイトレスから届いたマカロニパスタをローラはそっと受け取って会釈する。

「それだけの練度は私も周囲も自他ともに認めるところだ。私でも勝てるかわからない」

 最後の言葉は俺にも重たく受け取れた。

「ああ、どれくらいいるのか、だな人数で聞きたいところなんだろう?」

「三人だ」「いつかの森で話したあの三戦姫だ」

「私とジェシカと、もう一人も会っていたはず」

 と言われて心当たりを探す。なにも見つからない。

「わからなかったか」と助け船。かと思えば。

「そのうち会う、そこでまた話そう」

 と少し突き放される。ローラにも都合があるのだろう。


 次だ。とローラは続けた、話が変わるようだ。

「食事のついでにニコやかに、種明かしの時間だ」

「ジェシカの情報をやる、お前もなんだ、強制ではないから固くならなくていいぞ」

 そんな上司か何かみたいに前置きをするローラは小さいのに大きく見えた。声はこころなしか麗らかな……きっと形容するにはこうだ、スズメの鳴き声に似ている、愛嬌の中に芯が通っているような親しみやすい声だ。そう気づいた。


「まとめれば、端的にジェシカは才能があって努力をしたからあれほど強いんだ」

「ジェシカの最初駆け引きで使っていた魔法、その「シェイク」と「シザース」だが、体感した通り時空魔法だ。極めて操作性の高い魔法だからセンスがいる」

 シェイクは位置とタイミングをズラす魔法。シザースは同時のタイミングで2つのものを向かい合う方向に移動させる魔法だ。と、説明された。それらは戦っていてそういう物だとは分かっていても、キツネにつままれた感覚が残る魔法だった。

「もしアレの身の上について教えられる機会があったら、同情してあげないでほしい」

 なんて話も言われた。アレとは紛うことなきジェシカのことだろう、身内だからなのか少し軽く見ている感じだ。

「アレは、決して高潔というわけではないけれど、触れて欲しくないものもあるんだ」

「あと、ジェシカの得意魔法は時空と氷じゃない」

「!?」

 素直に驚いた、何を言われるかと思ったらそんな突拍子のないことを言われるだなんて。それでも確かに俺は、ジェシカが氷の竜を自在に操縦していた姿を見ている。

「おまたせしました」

 このタイミングで、碧髪でエプロンの女性が料理の乗った大きなトレイを運んできた。

 この深堀りせずにはいられないタイミングで、ウェイトレスが料理を運んできた。邪魔をされた気分だった。

「こちら豆板醤とじゃがいものトマトスープ大盛りと、特辛ジャンボ南蛮鶏定食、チリハバネロトマトピザ。雑穀米の特大盛りになります!」

 これが全部ローラの朝食だ。

 俺は口をあんぐりと開けてその料理の到着を見届けた。

「いつものって言っても急いでくれるんだ、早くて美味しくて最高の店だよ」

 そう絶賛するローラの目の前には、赤赤と燐光を放つソースのまぶされた激辛な南蛮鶏の肉が対面する俺の頭ほど高く積み上げられていた。

 本当にすごい量だった。

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