第4話 探索者講義始まりました!?

 俺と妹の聖は、遅めの昼食を済ませ、再び探索者協会の建物へと戻ってきた。


 受付で呼び出された通り奥の大きな部屋へ進むと、すでに30人ほどの人が集まっているのが目に入る。

 ひととおり見渡してみると、俺たちと同じ高校生らしき姿が4人ほど。

 そのほかは大学生や社会人風の人たちが中心で、まさに老若男女といった感じだ。


 これだけ幅広い年齢層が同じ講義を受ける光景は、正直珍しく感じる。

 

 けれど、こうして一斉に「探索者」としてのスタートを切る同期たちがいると思うと、少しだけ心強い。

 聖も同じ思いなのか、俺と目が合うと肩をすくめつつ、小さく笑ってみせた。

 

 案内された席につき、しばらく待っていると、短髪の男性職員が部屋に入ってきた。


 見た目は30代くらいで、その筋肉質な体格は着ている制服がピタッと張りついて見えるほど。まるでトレーニングの鬼か何かみたいだな、と俺は心の中で呟く。

 

彼は部屋の前方に立ち、周囲をぐるりと見回したあと、はきはきと自己紹介を始める。

 

「私は探索者協会・講義担当の山吹といいます。元探索者で、ランクはB。ギルド『蒼天の剣』に所属しておりました」

 

 自己紹介が終わるや否や、周囲からどよめきが起きる。

 

「え、『蒼天の剣』だって……!」

「超有名ギルドじゃん。まじか……」

「サインとか頼めるかな……?」

 

 どうやら“蒼天の剣”というギルドは相当な知名度を持っているようだ。


 俺は最近になって「探索者になるか……」と考え始めたばかりだから、そのへんのギルド事情に疎い。

 ぽかんとしていたら、隣の聖が小声で呆れたように話しかけてきた。

 

「お兄ちゃん、『蒼天の剣』知らないの? 日本でも有数のギルドで、数多くのダンジョンを攻略してきた“トップ5”の一角なんだよ」

 

 俺が「へー……」と曖昧な声を出すと、聖はあからさまに呆れたように首を振る。


 言い返そうとしたが、山吹さんが「皆さん、静かに。これから資料を配りますね。講義はこの資料をもとに進めますので、まずは各自ざっと目を通してください」と告げ資料を配り始めたので口をつぐんだ。

  

 俺の手元にもA4サイズの印刷物が渡され、めくってみると探索者ランクの制度や諸々の注意事項がびっしり書かれている。

 簡単な図もあって、意外にわかりやすい。

 

「まず最初に、皆さんがこれからなる“探索者”にはランクというものが存在します。ランクに応じて入れるダンジョンが制限されており、難易度の高いダンジョンを攻略したければ、ランクを上げていただく必要があります」

 

 資料を眺めながら話を聞いていると、“GからSまで”というランク表が目に入る。

 俺たち新人探索者は当然のことながら全員Gランクからのスタートらしい。

 

「Gランクの場合、初心者向けダンジョンしか入れません。ここ、みなとみらいに発生したダンジョンが、初心者用としては最も近い場所になりますね」

 

 山吹さんは手持ちの端末を操作して、モニターに各地のダンジョン情報を映し出す。

 確かに「みなとみらいダンジョン」があり、“初心者向け”と書かれているのが分かる。なるほど、まずはこのダンジョンで腕試ししていく感じか、と納得する。

 

 ランク制度について話し終えた山吹さんは「では、皆さんは“探索者協会”という存在がどのようにして誕生したか、ご存じですか?」と講義の参加者に向け質問を投げかけた。

 

 最前列に座っていた大学生くらいの男性が手を上げて答えた。

 

「40年前、各地に突然ダンジョンが現れて、“氾濫”を起こし、周囲に大きな被害をもたらしました。それを鎮圧したのが、ジョブに目覚めた勇者様と聖女様で、その方達が中心となって探索者協会を立ち上げた……というのを聞いたことがあります」

 

 その話なら、俺でも耳にしたことがある。


 漫画やライトノベルなどでも取り上げられている、いわゆる“現代の英雄伝説”だ。

 

「その通りです。初代探索者協会会長の御剣白夜様と、聖女と呼ばれる白鷺祈里様が、各地の氾濫を鎮圧して回ったわけですが……。40年前世界各地で同時多発的に起きていた氾濫を、探索者協会もない時代にどうやって対処したのか不思議に思いませんか?」

 

 山吹さんの問いかけに、教室が少し静まり返る。確かに、勇者と聖女がいればある程度のモンスターは倒せるだろうけど、地理的な問題で人手不足をどう埋めたのかは謎だ。

 

 誰も口を開かないので、俺はふと思いついた可能性を言ってみる。

 

「何かをきっかけに、ジョブに目覚めた人が……どんどん増えた、とか……?」

 

 恐る恐る口にすると、山吹さんがこちらを向いて目を細める。

 

「そう、それです。早乙女さん、いいところに気づきましたね。聖女となった白鷺様には“神託”が降りて、ジョブを目覚めさせる方法が示されたんです」

 

 神託。ということは、神様の存在を前提にした話か。

 正直、「もし神様がいるなら最初から氾濫を食い止めてほしかった」と思わなくもない。

 

「神託によると『ダンジョン近くに石板があり、そこに手をかざせば大いなる力に目覚める』という内容だったそうです。実際、氾濫が起きている地点に行くと必ず石板があり、触れた人が次々とジョブを獲得した。これが“第一世代”と呼ばれるジョブ覚醒者たちの始まりです」

 

 山吹さんは深刻そうな表情を浮かべながら続ける。

 

「ジョブ覚醒者が増えたことで各地の氾濫は徐々に収束していったのですが、覚醒者が増えれば増えるほど、能力を悪用する犯罪も増えていきました。人手不足を解消するための神託でした。それは、同時に新たな社会問題を引き起こすことにもなったんです……」

 

 部屋の空気が少し重くなる。

 

 資料をめくると、“ジョブ乱用”や“犯罪増加”という項目が見える。

 特殊能力という“未知の力”を得られる分、それを悪用しようとする者も出るのだろう。

 

 まだ何も始めていない俺や聖だけど、すでにこの世界が一筋縄ではいかないと痛感せざるを得ない。

 危険だという覚悟はしていたが、社会問題としても大きいとなると、背筋が少し冷える感じだ。


 山吹さんは続けて、資料の次のページを指し示しながら、犯罪増加を抑えるための制度や、協会設立後の変遷を説明していくようだ。

 これだけでも予想以上に複雑な背景があるらしい。

 

 正直、少しばかり頭がクラクラしてくるが、ここでついていけなければ先へ進めないだろう。


 聖は真剣な表情で資料を見つめ、ペンで何かメモを取っている。

 どんどん頼もしく感じるが、そんな妹に負けるわけにもいかない。

 俺も資料をしかと見つめ、次に何を言われても対応できるよう、心を整えた。

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