第5話 ジョブって何なんですか!?
山吹はここまで、ジョブ覚醒者の犯罪について詳しく触れてきたが、話をまとめるように穏やかに言葉を続けた。
「ジョブ覚醒者は未知なる力を獲得します。そのため、使うものにはおのずと責任が伴います。もしこれを犯罪に使えば、普通の犯罪よりも厳しい処罰が科せられることになります。だからこそ、“探索者を管理する立場”として、今の探索者協会があるわけです」
そう言いながら、山吹は部屋を見渡してほっとするような笑みを浮かべる。
重苦しい話題の後だけに、その笑顔には「場を和ませよう」という意図が透けて見える。
「さて、では先ほども言いましたが探索者ランクについて、もう少し掘り下げましょうか」
山吹が手元の端末を操作すると、モニターに新しい資料が映し出される。
そこにはGからSまでのラック構造と各ランクの特徴がわかりやすくまとめられていた。
「皆様は全員、最初はGランクからのスタートです。ダンジョンを攻略したり、探索者協会からの依頼をこなしてポイントを溜め、それらを踏まえ、定期的に行われる試験をクリアすると、ランクが上がっていく仕組みですね」
その話を聞いて、大学生くらいの男性がまた手を挙げる。
「あの、探索者協会からの“依頼”って、具体的にはどんなものなんでしょう?」
山吹は少し首を傾げながらも落ち着いた調子で答えた。
「そうですね。典型的には薬草の採取なんかがあります。協会内にはポーションや薬品を製造する部署があって、そこに必要な素材を集めるのが代表的でしょうか。得られるポイントは正直微々たるものですが、コツコツ積み重ねればランクアップの足しにはなるかと」
そう言いつつ山吹は再び画面を切り替え、次の資料を映し出した。
「GからEを下位ランク、DとCを中位ランク、B以上を上位ランクと呼びます。Sランクは世界でも50人ほどと言われており、私が所属していた“蒼天の剣”のリーダー、青柳刀弥がそのSランク探索者の一人ですね」
モニターには大きな円グラフが映し出されているが、まだ何の説明も記載されていない。
山吹はグラフを指し示しながら、講義室をぐるりと見渡した。
「皆さん、このグラフが何を示しているかわかりますか?」
「多分、探索者全体のランク割合じゃないでしょうか」
答えたのは、反対側に座っていた高校生くらいの女の子。
長い黒髪に真面目そうな雰囲気で、俺は思わず「ちょっと委員長タイプか……」と呟きそうになる。
……よく見ると大変大きいものをお持ちのようだ。
「こほん」と聖から感じる圧に俺は前を向きなおした。
「その通り。見てのとおり、下位ランクが全体の半分以上を占めているんです。これは簡単な常駐依頼をこなしたり、浅い層でモンスターを倒して魔石を換金するだけでも、ある程度の報酬を得られるからですね。一方、深く潜れば潜るほど危険度が跳ね上がり、命を落とす可能性も高くなる。なので、ランクは皆さん自身の命を守るためのシステムとも言えます。小遣い稼ぎ程度なら下位ランクで十分、という人も多いんです」
説明を終えたところで、30代くらいの男性がまた手を挙げる。
「ちなみに、ランクを上げる試験って、どういう内容なんですか?」
山吹は端末を一瞥し、軽くうなずいてから答えた。
「簡単に言えば“模擬戦”ですね。私のように探索者を引退した者がダンジョンに同行し、次のランクに挑めるかを判断します。もし不合格でも、試験は定期的に行われているので、また再挑戦すれば大丈夫ですよ」
さらに細かい質問や質疑応答が交わされ、講義も盛り上がりを見せる。
俺も最初は興味津々だったが、正直、情報量が多いせいでちょっと疲れてきた。
ちらっと隣を見ると、聖はノートを取りながら必死にメモをしていて、めちゃくちゃ真剣な表情だ。
兄としてこの姿勢に負けるわけにはいかない……と気を奮い立たせ、再度資料に目を戻した。
「さて、次に皆さんが一番気になるであろうジョブについて話しましょう。ジョブは大きく分けて前衛職・後衛職・サポート職がありますが、サポート職は少し特殊です。ちなみに私は“聖騎士”のジョブを持っているので、前衛寄りですね」
山吹がモニターに新たな資料を映し出し、話を続ける。
「ジョブには段階があります。たとえば、有名なAランクギルド“獣王無塵”をご存じでしょうか。そこのギルドマスター、レオンは“拳士”のジョブを得ていましたが、ライセンスには“ネメアの獅子”と表記されるようになったそうです。獣耳や頑強な体を手に入れ、見た目に大きな影響が出るケースもあります」
ネメアの獅子――ヘラクレスが倒したライオンの伝説ぐらいしか知らないが、神話的モチーフがジョブに結びついている、ということだろうか。
頭をひねっていると、山吹がにこりと笑う。
「ジョブを覚醒した際、それぞれ神々からの恩寵を受け取ります。どんな力が目覚めるかは分かりませんが、皆さんの“願い”や“望み”が影響し、ジョブは進化していく。変化する際は多くの場合、一度目の進化時に見た目まで変わることが多いですね。私は3段階まで進んでまして、こういうことができます」
そう言うや否や、山吹は腕を前に出し「聖剣顕現」と呟く。
何もなかった空間から、まるでゲームやアニメで見る細やかな紋様の入った一振りのロングソードが出現し、周囲から「おお……!」と声が上がる。
「私のジョブはもともと‘騎士’でしたが、段階を経て‘聖騎士’になり、ライセンスには今“聖騎士シグルド”と記載されています。ご覧のとおり、剣を出した際に見た目もこう変わるんですよ」
その視線を追うと、山吹の髪はさっきまでの黒髪からブロンドに、瞳も鮮やかな赤に変わっている。
彼が聖剣を手放すと、瞬時に黒髪・黒い瞳へと戻っていった。まるで変身シーンを見ているみたいで、参加者のテンションも上がっているようだ。
「このように、ジョブが段階を経ることで“何をもとにした力なのか”がよりハッキリします。さて、皆さんは次の部屋でジョブ判定を受けてもらう予定です。皆さんが自分のジョブで、どのように今後の探索者ライフをどう切り拓くか――楽しみにしています」
最後に資料を見返すと、「思いの強さがジョブを強くする」という一文が目についた。
神々の力を得るとか、見た目が変わるとか、やりすぎなくらいファンタジックな要素に胸がドキドキ高鳴る。
小遣い稼ぎのつもりで始めようと思ってたのに、気づけば一大冒険の幕開けみたいな気分だ。
ふと隣を見ると、聖は俺と同じページをじっと見つめて、すごく真剣そうな表情を浮かべている。
そんな妹に引けを取ってられないな……と、俺は心の中でこっそり決意を固めた。「どんな状況でも守り抜いてみせるからな」と。
「では、皆さん。次の部屋の準備が整いましたので、移動をお願いします」
山吹さんが声をかけると、さっきまで静かだった部屋の空気が一気に熱を帯びた。
どうやらジョブ判定が近いらしい。
――期待と不安で胸がいっぱいだけど、ここまで来たらもう覚悟を決めるしかない。
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