第3話 みなとみらい駅と探索者協会!?
朝の暑さがピークに近づく頃、俺と妹の聖は、ほぼ満員の電車から押し出されるように降り、みなとみらい駅の改札を出た。
改札付近には観光客らしい家族連れやカップル、ビジネス街へ急ぐサラリーマンでごった返している。
いつもなら「観光地だなあ」なんてのんき感心するところだけど、こっちは切羽詰まっているわけで。
エアコンがガンガン効いた建物から外に出ると、むわっとした湿気が肌をじっとりと包み込む。
海風があるはずなのに、ジリジリとした日差しに負けているのか、あまり涼しさを感じない。
ジワリと汗がにじむ額をハンカチで拭きながら、俺はうんざりした気持ちをなだめる。
「ようやく、みなとみらいだね……。探索者協会支社は……っと、地図だとこの埠頭のほうかな」
「暑いから、早く行こう」
聖がスマホを見ながら言うので、俺は聖の手を引きながら歩き始めた。
駅から埠頭へ向かう道のりは、オシャレな観光スポットや観覧車があるエリアから、徐々に閑散としたエリアへ移っていく。
多少の海風は感じるが、気温の高さには勝てず、背中にはうっすら汗がしみてきた。
ふと視線を前方に向けると、ガラス張りの大きな建物がひときわ存在感を放っている。
「これが探索者協会の建物なんだね」
聖が少しわくわくした表情で、建物を見つめている。
話によれば40年前、この埠頭付近に突然ダンジョンが現れて大騒ぎになったと授業で習った。
今では横浜観光の一部になり、ダンジョン関連の経済効果はバカにできないらしい。
協会はダンジョン管理と受付業務を一手に担い、多くの探索者がここで手続きをするんだそうだ。
「すご……。人、めっちゃ多いね」
聖が思わず足を止めて、思わず入り口から中を覗き込む。
受付待ちの行列や、ダンジョンへ行くための書類をチェックする人、ライセンスの更新をするらしきベテラン探索者っぽい人――とにかく大混雑で、小さなイベント会場かと思うほど賑やかだ。
学生の身としては、この大混雑はただただ圧倒される。
「探索者って本当にたくさんいるんだな」と改めて実感する。
「とりあえず受付、行ってみようか」
「う、うん……」
あまりの人の多さに、先ほどまでのテンションとは打って変わって、緊張した様子で聖が答える。
聖と肩を寄せ合いながら人混みの中を進み、ようやく見つけたのは【受付カウンター】と書かれた案内板。
その先には、爽やかな笑顔の女性が立っていた。
制服姿がキリッとしていて、年齢は……25歳くらい?
胸の名札には「白石萌花」と書いてある。
ちょっとクール系の印象だが、受付対応はテキパキしていそうだ。
「すみませーん。ライセンス取得の申請で来たんですが……」
俺が言葉を切り出すと、白石さんが書類を出そうとしながら、ちらっと俺たちの顔を見比べる。
「あら、高校生くらいかしら? 大丈夫? 一応、危険なお仕事って分かってるかしら」
その声には少し心配そうな響き。
妙にキツいわけじゃなく、「本当に若い子が大丈夫なの?」という素直な疑問だろう。
「ええ、まぁ……。事情があって、稼がないといけないんです。両親が探索者なんで、ある程度は覚悟してます」
「ふーん……そうなのね。学生の探索者もいないわけじゃないし。じゃあ、緊急連絡先や個人情報を書いてちょうだい」
そう言って差し出されたのは申請書。
名前や生年月日、住所、親権者・緊急連絡先など書く欄……と、想像以上に書く項目が多い。
俺と聖は指差し確認しながら、慎重に記入していく。
書き終わった書類を渡すと、白石さんがチェックを始めて「はい、オッケーですね」とうなずいた。
「次は、この奥の面談室に移動してもらっていいかしら。軽い質疑応答をやっちゃうから。そこでは主に、普段の素行を確認するのがメインだから緊張しなくていいわよ」
にこやかに言いつつも、ちゃんとした理由があるらしい。
どうやら「極端に危険な人間」をダンジョンに送り込まないための仕組みだとか。
面倒だけど、そりゃそうか。変な人がダンジョンでトラブルを起こしたら困るもんな。
「早乙女聖さん。Aの部屋にお入りください」
館内アナウンスのような呼び出しが流れ、部屋から女性の声が聞こえる。
「じゃあお兄ちゃん、私先に行ってくるね」
聖は軽く手を振ると、呼ばれた部屋へ入っていった。
確かに“緊張しなくていい”と言われたけど、いざ一人になると気になってしまう。
周囲を見回すと、チャラチャラした大学生くらいの男たちがこちらをチラ見し、ひそひそ話をしているのが耳に入った。
「さっきの女の子めっちゃ可愛くなかった? あんな子も探索者になるのか。うわー、一緒にパーティー組みてー!」
うわ、何か言ってる。腹立つなぁ……。
まぁ、聖は可愛いが。
そんな気分になっていたところで、タイミングよく館内アナウンスが入る。
「早乙女惠さん。Cの部屋にお入りください」
呼ばれた部屋に入ると、机と椅子、それに数枚の資料が置かれた小さな面談室。
中年男性の職員が座っていて、「どうぞおかけください」と手を差し示す。
「じゃあ、まずお名前からお願いします……」
そこから始まるのは、犯罪歴の有無や近所トラブルなど、“危険人物”を見極めるための質問ばかり。
面接というより、簡易アンケートに近い感じだ。
俺が答えている間、男性職員は「なるほど」「そうですか」と穏やかに相槌を打つばかりで、逆に拍子抜けするほど和やかだ。
一通り質疑応答が終わると、職員はほっとしたように笑みを浮かべる。
「普段の生活に問題なさそうなので大丈夫ですよ。あとは探索者の事前講習とジョブ鑑定が残っていますから、そちらも頑張ってくださいね」
軽く会釈して部屋を出ると、先に終わったらしい聖が受付の白石さんと話していた。
「お兄ちゃん、お疲れ様。質疑応答どうだった?」
「問題なしって言われたけど……つーか、嘘つこうと思えばいくらでもいけそうな気がするよな」
質疑応答だけで“素行の悪さ”を完全に見抜けるのか、疑問が残る。
すると、その疑問に答えたのは白石さんだった。
「それは無理よ」
会話に割って入る形で、白石さんがパラパラと資料を見返しながら言葉を続ける。
「質疑応答してる職員もライセンス所有者でジョブ持ちだから、ライセンス取りに来た人が嘘をついているかどうかはだいたい把握できるの。簡易的な能力で見るわけ」
なるほど、嘘発見器的な職能を持っているのか。
さすが探索者協会、妙なところで侮れない……。
感心していると、白石さんが話題を切り替えた。
「ちなみに、15時から行う探索者講義に空きがあるんだけど、お二人とも参加できる? 一応、ジョブ鑑定も含めて必要な講習になるのだけど。今日中にライセンスを取りたいなら、同じ時間で受講できるわよ」
周囲は相変わらずの賑わっている。
多くの探索者や職員が行き来する中、俺と聖は顔を見合わせる。
俺は講義や勉強と聞くとテンションが下がりそうだが、どうやら避けて通れないようだ。
「お願いします! いいよね、お兄ちゃん?」
「そうだな。早めに取れるなら助かるし……」
危険な道だと分かっているし、手続きも盛りだくさん。
とはいえ、家計が火の車の現状では立ち止まれない。
ここで逃げたら生活費すら確保できないわけだ。
「お願いします」と頭を下げると、白石さんは「分かったわ。じゃあ講義開始の時間まで、遅いお昼ご飯でも食べて休憩しててね」と笑顔で応じてくれた。
まだまだやることは多いけど……もう引き返すわけにはいかない。
こうして、みなとみらい探索者協会支社での素行チェックをクリアした俺たちは、午後からの探索者講義に参加することに。
ジョブ鑑定も含め、まだまだ先は長いらしい。
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