描写のリアリティや視点転換の面白さが見事な翻案

 全体を通して、非常に完成度の高い翻案になっていると感じました。その要因は主にふたつあり、第一は、原作における基本的なプロットを踏襲しつつ、その細部を、時代考証を踏まえつつ丁寧に埋めている点が挙げられます。とりわけ、この物語の発端である、鬼への供え物とそれを鬼が食べたことがこのような奇譚を生み出してしまったことについて、鬼のロールに関するある種現実的な設定によってリアリティが付加されていたのは見事だと思いました。それに関連していえば、原作でも既に感じ取れた閻魔王の公正な管理職としてのキャラクターが強調されている点や、鬼の業務における誤魔化しがより大きなトラブルへ発展していく様など、われわれ現代人にとって馴染み深い仕方で閻魔庁の業務が描写されているところも魅力的でした。
 第二に、原作における「本当にこれでよかったのだろうか?」というラストについて、まさに「生ける屍」という形で興味深い問題提起がなされた点が注目されます。私自身が原作を読んだ際は、山田方は娘を失ってこれでよかったのだろうかと思ったのですが、本作ではむしろ、現世に返された鵜足の側が、ある種の生き地獄を経験する様子が回顧的に描かれます。原作のプロットはほぼ忠実に再現しつつ、このような異なった観点からの再考を促す視点変更は非常に見事で、「翻案」の面白さが顕著に表れている作品だと感じました。