道登の色気がすごい
- ★★★ Excellent!!!
『今昔物語集』の翻案という企画から独立にみても、魅力的なキャラクターたちが織り成す怪異譚シリーズの一幕として魅力的な物語でした。前編では、制多の子どもながらの無邪気さとそのゆえの清子との交流が、危ういながらもロマンティックに描かれ、しかし清子を道登が無視したというフリのせいで「制多の判断は正しいのか?」という不安が常につきまとっています。後編で道登が話し始めたときの安心感はそのぶん強く、「これからは、弟子を見習って少しは憐れな魂に気を止めることと致しましょう」という台詞から、本作が明るい方向へ向かっていく兆しが見られて、読者側も徐々に勇気づけられてゆきます。クライマックスである濡女との対決シーンはダイナミックで、アニメーションが目に浮かぶようであり、その中で道登の僧らしからぬ妖艶さが光ります。
原作に照らせば、本作は制多が清子に施しをしたことの報恩を受けた話とまとめられそうですが、そこからさらにひと悶着あるところのオリジナリティと、キャラクターの個性、エピローグにおける清子たちの幸せそうな様など、シリーズものの中に古典文学の翻案を巧妙に取り入れたつくりになっており、楽しく読むことができました。原作で描かれていないところのディティールを膨らませる手法には感嘆するものがありました。