第37話 八幡 亮二 前編
指定された教室に来てから、10分ほど経っただろうか。
昼休み、奏経由で放課後ここに来るようにと伝言があったため、こうして来ては見たものの……。
「誰もいないな……」
何度か部屋の外に出て確認してみたものの、間違いは無い様だ。
とりあえず、教壇の真正面の席を引き、そこに座った。
しばらくすると、駆け足の音が一室の前で止まり、ガラッと扉が開かれた。
「いや~、ごめんごめん! 遅れてしまって!」
扉が開いた瞬間、男が爽やかな笑顔で現れた。
軽く乱れた黒髪が、どこか自然な優しさを感じさせる。
眼鏡をきちんと整えながらすぐに席に着くと、優しい声で話し始めた。
「え~、南 虎太郎くん? で良かったかな?」
「あ、はい。え~っと――」
「ああ、これは失礼」
そういうと男は、後ろの黒板に何やら書き出した。
「
八幡……どこかで聞いた覚えが……。
「学園の特進科 外部講師をさせてもらっているよ」
ああ!
なるほど、この人が奏が言っていた『ぱーまん先生』か。
「じゃあ、早速だけど、南はどこまで聞いているのかな?」
「どこまで――」
どこまでも何も、何も知らない。
考えあぐねているのを見かねてか、八幡先生が声をかけてくれた。
「――うん、なんとなくわかったよ……。じゃあ、とりあえず、基本的なところから話そうか」
「……お願いします」
そういうと、八幡先生はまず黒板に『特進科について』と一文書いた。
「まず、特進科についてだね。ここ美州中央学園は、CA技術関連に力を入れていてね。簡単に言ってしまえば将来的に、特定能力資源管理機構に優秀な人材を送り込みたい。そんな理由で、特進科は設立されてるんだ」
「なるほど……」
「まあ、もちろん特進科にいるからって進路はそれ一択、強制というわけじゃない。やっぱりやりたい事、夢とかそういうのもあるしね。南は、今は何か無いのかい?」
進路、夢か……全く何も考えてない。
「まあ、今は無くてもいいんだ。で……ほとんどの人は、受験時にいろいろ試験とかに合格して特進科にいるわけなんだけども――」
「あ! それなんですけど、俺何も聞いてなくって!!」
八幡先生は困った顔をして、説明を続ける。
「……あまりこういうパターンは無いからね。あっても学期区切りとかで。CAデバイスの事は、聞いたのかな?」
「それは、一色から……4級に合格しないと携帯できないからって」
今日の朝、奏に分厚いテキストを見せられたのを思い出す。
「そうなんだよね。それで、少し困っててね。合格まで待っているのもちょっと……ということで、仮免許みたいなものを用意しようって話にはなっていてね」
「仮免許?」
「どうしてもCAデバイスの使用は特進科授業には必須でね。使えないと授業にならない時が多いから。もちろん、試験は今年中くらいを目途にちゃんと合格はしてもらうよ。あくまで仮の処置って事」
少し安心した。
何を言われるかと思ったが――とりあえず、明日までに全部覚えてこい!みたいな話ではなさそうだった。
「とはいえ、今日すぐにCAデバイスを渡すというわけにもいかない。最低、1週間は今日みたいな時間を作って、最低限の講義を受けてもらうからね」
そういって、その後もしばらく話は続いた。
♢ ♢ ♢
少し休憩しよう――八幡先生にそう言われ、部屋の外に出た。
窓からはグラウンドが見え、生徒が部活動にいそしんでいる。
「南は、部活には入る予定は無い?」
「今のところ帰宅部ですね」
「特進科には少し変わってるところがあってね。特管から、依頼が来ることがあるんだ」
「依頼……ですか?」
「そう。特管もなかなか手一杯みたいでね。まあ、それをこなすとお手当てがもらえる」
「お手当て?」
「学園公認で、アルバイトが出来るって事だよ」
アルバイト。
魅力的な響きだった。
「もちろん、危険度は低いと判断されたような依頼ばかりなんだけど、やっぱり何が起こるかわからないような状況でしか得られないものもあるからね。ま、実戦形式の実習だと思ってくれればいいよ」
「ち、ちなみに、いくらくらい……?」
「ものによるけど……1回1万円くらいかな? ああ、でもさすがにこれは免許取ってからじゃないとだめだよ」
1回1万円……充分な額に思えた。
これは、かなり4級合格へのモチベーションアップになりそうだ。
「まあ……僕的には、あんまりしてほしくない気持ちもあるけど」
「そうなんですか?」
「絶対危なくないのか――と言われると、ゼロではないからね。子供にさせることなのか……とはやっぱり思っちゃうかな」
実際、最近はいろいろな問題が起こっており、けが人なども出ることもままあるとの事だった。
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