第3話 旅立ち

スミノスウルフ、群れの最後の一体と相対する。


「『魔法装填フォートシ』」

「『レア・フローガ』」


『レア・フローガ』、中級炎魔法を剣に纏わせ、地面を蹴り───


「ッハ!」


一閃、的確に致命傷を与えられる場所を狙い一撃で仕留めにいく。

だが他のスミノスウルフを倒す時に狙っていた場所がバレていたらしい、ギリギリのところで身体を逸らされて致命傷とまではいかなかった。


「ならば!」


もう一閃、先程の斬撃で傷を負った敵にこれを避ける術はない。


「ッガ!!」


「これで最後、か。」


今倒し終わったスミノスウルフの魔石を回収していく。

僕は魔法剣を使う都合上剣を振れる回数に制限がある。

よって出来るだけ一撃で仕留めるようにしているのだが、先程の敵は少し賢い個体だったようだ。


いや、今回のは僕の方の問題か。

普段は戦いの時に他のことなどちっとも考えないようにしているのだが、今日はずっとひとつの事が頭の片隅を離れないでいた。

今朝ゲバンヌさんから受け取った紙、新たな名剣の情報のことだ。


新たな名剣の噂、それは選ばれし者にしか抜けないという聖剣の噂。

情報源はプロタ村という集落からきた青年。

プロタ村というのはどの国にも属さない辺鄙な地にある集落で、青年は冒険者になるためにはるばるペルべティアまでやってきたという。

そして肝心な聖剣の情報だが、歴史上今まで鞘から抜けたことがない剣らしい。


紙に書いてあったことをまとめると、

剣の出自は不明だが、発見された当時は集落に住んでいた誰しもが剣を鞘から抜こうと試み失敗し、選ばれし者にしか抜けないという噂が作られることとなった。

その噂が広まり、数多くの旅人が剣を抜こうとしたがそれでも剣が抜けることは無かった。

長い年月を経て噂は変化し、選ばれし者にしか抜けない聖剣から絶対に抜けない聖剣へ、そして今となっては集落の人の感心も薄れてきて誰も興味を示さなくなっている。


ハッキリ言おう、この情報は今までの情報の中でも群を抜いて信憑性がない。

今までの名剣の情報は近隣国家で1番の名工が国の保管する最高の鉱石を鍛えて出来た剣の話だとか、新しく発見された竜種のドロップアイテムが使われた剣の話だとかもっと剣についての情報が具体的だった。

今回の聖剣の話は出自不明、材料不明、あるのは鞘から抜けないという情報のみ。

それでいて滅茶苦茶辺鄙な地にあるという。


あの銭ゲバ、この情報で1000マニーとったのかよ...。

今までは、得た情報に関しては遠目からでもと全部足を運んでいた。

全て僕の求めるものでは無かったものの、それでも様々な名剣を見て世界の広さは知れたしその周辺の名物料理を食べるのも悪くなかった。

何より、今までの場所は日帰りか一泊で帰れるくらいの距離だった。


「今回の目的の場所に行くとなると、帰ってくるまでに7日はかかるだろうな。」


3日で行って、1日滞在、また3日かけて帰るのスケジュールだ。

地図を見た感じそこまでペルべティアから遠いという訳ではなかった、しかし道がないのだ。

青年いわくプロタ村からペルべティアまでは道が作られていなくて、ペルべティアと逆方向にある国を通って遠回りをするなら道はあるがとんでもなく長い旅になると。

適当に野宿しながら進んでいけば3日で着くくらいの距離なのはいいとして、姉さんのことが問題だ。


7日だ、7日はいくらなんでも誤魔化しきれない。


「おそらく、明日からのクラン探索で3日は僕の家に来ないと予想できる。」


普段ならこれで十分だった、姉さんがクラン探索でダンジョンに潜っている間に僕がちょちょっと名剣を拝みに行って帰ってくるだけだ。

だが7日はまずい、それだけあったら絶対姉さんは家に来るし、僕がいなかったら心配する。

かと言って前もって伝えてしまうと一緒について行くとも言い出しかねない。


「むむむ。」


実に困った。

ーーーーーーーーーーーーーー


長旅の準備を済ませていたうちに、姉さんはクラン探索へと出発した。

よって、長旅へ赴くための最後の準備ができるようになる。


カキカキ、カキカキ


「よし、これで姉さんのことはダイジョーブと。」


僕は色々と悩んだが、置き手紙を用意しておくことにした。


「姉さんへ

ちょっくら長旅に行っています。

7日くらいで帰るので安心して待っていてください。

マギアより」


完璧だ、完璧すぎる。

行先は書いちゃうと姉さんが来ちゃう可能性があったので伏せておいた。


「武器よし、野宿用テントよし、食料よし、衣服よし、地図よし。」

「最後に姉さんのことよし。」


「どれだけ信憑性が薄かったとしても、僕の求める名剣を見つけるチャンスを見逃すのはなしだ。」


得体のしれない聖剣が、僕の求める名剣であることを願って、


「いってきます。」


履き慣れた靴を履き、プロタ村へと出発した。

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