第2話 名剣を求めて

それを一目見た瞬間、運命だと思った。

間違いなく、僕の求めていたものがそこにある。

どれだけ苔むしていたとしても、僕の目は騙されない。

何せずっと夢見ていた、僕にとっての至高の一振なのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーー


姉さんにいってきますと伝え、毎日通っている鍛冶屋に向かう。


途中で近道の裏路地を通っていると、何やら物騒な声が聞こえた。


「金をよこせ、あるだけ全部だ。」


強面のおっさんが10歳程度に見える少年から金をたかっている。

実に酷い絵面だ。

裏路地では、このようなことが偶に起こる。

全く大成しなかった冒険者のごく1部、人間的に終わっている者達がひとけのない場所で一般人を襲っているのだ。

何一つ成功しなかったとしても冒険者は冒険者、一般人よりはそれなりに強いので厄介だ。


「やめなよ。」


僕もおっさんと同じく全く成功していない冒険者側だが、人間として終わっているわけではない。

この状況で少年を助けることくらいはするに決まっている。


「ア?なんだおま....ッチ、『妄執者』かよ。」


おっさんは呆気なく逃げていった。


「あ、ありがとうございます。」


少年が腰をペコペコして礼を言ってくる。

こういったことが起こった時、一般人を守るのは冒険者の責務のようなものだ。

大したことでは無い。


「どういたしまして、でもこういった裏路地に入るのは感心しません。」

「ここら辺は危険なんですから。」


その後は少年から話を少し聞きながら、少年を大通りまで送り届けた。


「じゃ、これからは気をつけてね。」


「はい!ありがとうございました!」


自分の家へと帰って行く少年に手を振る。


先程荒くれ者のおっさんが僕の一言で逃げていったのは決して僕が強いからとか、僕が怖いからといった理由では無い。

僕の背後にいる存在が怖いのだ。


この地ペルべティアでごろつきをするには絶対に守るべきルールがある。

それは大規模クランには手を出すなということだ。

大規模クランのメンバーに手を出してしまった日には、そもそもその場で返り討ちになるか、奇跡的に逃げられたとしてもクラン内で結成される自警団によってボコボコにされるかの2択しかない。

どう足掻いても結末はボコボコだ。

そんでもって姉さんはペルべティアの三大クランの1つ『白銀の集い』のメンバーである。

その弟である僕を襲うことはかなりリスクのある行為。


要するに僕は虎の威を借る狐の要領で、あのおっさんを撃退しただけなのだ。

ほんとに礼を言われる筋合いはなかったように思える。


1年前、僕がこの街で冒険者を始めた当初は僕が『血染めの姫』の弟だなんて知れ渡ってなかったので、僕が魔法剣で武器を壊しまくっているというのを知った気性の荒い冒険者が僕をいびりに来たということもあった。

ちなみにその後姉さんが気性の荒い冒険者をボッコボコのフルボッコにして、僕が『血染めの姫』の弟だと言うことが知れ渡ってからはそういったことは一度も起きていない。


そんなこんなで大通りを歩いていると、目当ての店に到着する。


「おはようございます。」


店に入り大きめの声で挨拶をすると、店奥からがたいの良いドワーフが出てくる。


「今日も来たか、マギア。」


僕が毎日通うこの店の店主、ゼニ・ゲバンヌさん。

かなり腕はいいのだがとにかく金にうるさい人だ。


「いつもの、下さい。」


「オーケーオーケー、ちょっと待ってな。」


この店でいつものなんて注文するのはこの街で僕、たった一人だろう。

ゲバンヌさんの店で扱っている商品、そのほとんどは高級品だ。

金はたっぷり取るがその分良いものを提供する、それがゲバンヌさんのポリシーらしい。

一切値引きすることもないし、ツケ払いも許さない。

接客中もすぐに金の話をするので、『銭ゲバ名匠』という二つ名が付いたそう。


なんでそんな高級店に僕が毎日通っているのかというと、僕とゲバンヌさんの相性が良かったからだ。

人間的にとかじゃなくて、売り手と客として。

普通鍛冶屋に毎日通う人間など、そう居ない。

武器の手入れを鍛冶師に毎日頼む人はいるが、そういう人は大抵専属の鍛冶師が居る。

もしくはクラン在中の鍛冶師が毎日武器の手入れをしているとかだろう。


僕が購入する剣はここに置いてある品々と比べれば超がつくほどの安物だが、毎日買うとなれば話が違う。

ゲバンヌさんいわく、安い鉄を休憩がてら少し叩くだけできる僕の求める剣は、毎日売れるとなればコスパ良く稼げて良いらしい。


魔法剣の使用ですぐに剣を壊してしまう僕に剣を売りたがる鍛冶師なんてまず居ない。

みんな自分の作品に愛着があるからだ。

それに対しこの人は頭の中がお金のことばかりなので、壊したとしても文句を言われるどころかさっさと新しい剣を売ってくる。

僕にとってこれほど助かることはない。


このウィンウィンな条件が揃った結果、半年以上ここに通い続けることになったのだ。


「ほれ、500マニーだ。」


500マニーを渡し、剣を受け取る。


「そういえばお前さんにひとつ、朗報がある。」


「お、新しい名剣の噂ですか?」


僕はこの人に、名剣の噂があったら教えて欲しいと頼んでいる。

僕は魔法剣に適正のある剣を探しているのだ。

例えば魔法を剣に纏わせる時、その剣次第でどれだけ上手く纏わせられるかが変わってくるし、どれだけ魔法に耐えられるのかというのも剣それぞれだ。

見つかったとしても手に入れるのは難しいかもしれないが、欲しい剣があるというのは目標になる。


ゲバンヌさんに教えて貰ったもので、本当に魔法剣に適正があると感じた剣は今まで無かった。

それでもきっとどこかにはあるのだと信じているので、この人が名剣の情報を手に入れる度にその情報を教えて貰っている。

もちろん無料で教えて貰えたことなどないのだが。


テーブルの上に500マニーを置く。


「足らんな。」


この銭ゲバめ。

断腸の思いでもう500マニー置く。


「よし、取引成立だ。」

「情報はこの紙にまとめておいた、受け取れ。」

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