第7話「策士と光の中で」

眩い光の中で、ザイド・シャドウは状況を把握しようとしていた。視界は完全に白く染まり、耳には守護竜の咆哮と地竜の鳴き声、そして古代の遺物から放たれる不気味な振動音が混ざり合う。


「はぁ......最悪のシナリオですねぇ」


自分の声すら聞こえないほどの轟音の中、彼は冷静に計算を続けていた。投げ込んだ薬剤の性質、バルドの一撃による地脈の変化、そしてメイベルの試薬。これらが混ざり合った時、何が起きるのか。


突然、腕を掴む感触。


「動くな」


バルドの低い声が、かろうじて聞こえてきた。戦槌「断罪」を構えた相棒の姿が、白い光の中にぼんやりと浮かび上がる。


「ザイド!装置の様子が......!」


メイベルの叫び声。中央の装置から、異様な振動が伝わってくる。まるで、何かが目覚めようとしているような......。


その時、風竜シルフィード・セージの翼が光を切り裂いた。巨大な体躯が、古代の遺物を覆い隠すように立ちはだかる。


「これは、面白いものを見つけましたね」


リリア・クレメンスの声が響く。その声色は、もはや役人のそれではなかった。


「守護竜以前の技術。原初の地竜を再生しようとする試み。そして、その制御を可能にする装置」


「ほぅ」ザイドは軽い調子で返す。「調査官さんは、始めから知ってたと?」


「ドラゴン管理局の特別調査官として、私たちには知っておくべきことがある」彼女の声が冷たく響く。「そして、封印すべきものも」


地竜が低く唸る。全身の結晶が、まるで何かに抗うように明滅を繰り返している。


「父の研究は、間違っていなかった!」メイベルが叫ぶ。「これは、新たな可能性を......」


その時、予想外の出来事が起こった。


装置の中心で、原初の卵が不規則な振動を放ち始めたのだ。守護竜の加護を打ち消すような波動が、部屋中に広がっていく。


「これは......」リリアの声が、かすかに震えた。


壁面の結晶群が次々と共鳴を始める。紫の光が渦を巻き、地脈の力が一点に集中していく。それは、守護竜の力ですら抑えきれないほどの勢いだった。


「チッ」ザイドは舌打ちする。「バルドさん、頼みますよ」


「ああ」


戦槌が唸りを上げ、床を打ち砕く。地脈の流れを変えようとする一撃。しかし......。


「無駄です」リリアが告げる。「もう、誰にも止められない」


光が最高潮に達した時、ザイドは確かに見た。装置の中心で、古の遺産が形を変えていく様を。そして......。


「私の借金も、メイベルの実験も」ザイドが呟く。「全ては、このための布石だったというわけですか」


突如、守護竜が大きく翼を広げた。その動きは、明らかに何かを封じ込めようとするものだった。


「させません!」メイベルが、最後の試薬を取り出す。「父の研究は、こんな結末のためじゃ......」


しかし、彼女の声は途切れた。装置から放たれた衝撃波が、全てを飲み込もうとしていた。


「面白くなってきましたねぇ」


ザイドの口元に、かすかな笑みが浮かぶ。借金の真相も、薬屋の秘密も、全ては想像以上に深いところで繋がっていた。


白い光の中で、古の力と守護竜の加護が激しく衝突を始める。その狭間で、新たな物語の幕が上がろうとしていた。


(続く)

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