第2.5話「戦槌と龍の結晶」
「......違和感があるな」
ドラゴン管理局の応接室の窓から、バルド・アイアンは風竜の影を見つめていた。風の律動がいつもと違う。まるで、地竜の暴走の時のように、何かが乱れているようだ。
戦槌「断罪」の柄を握る手に、かすかな震動が伝わる。この振動は、かつて鍛冶場で感じたものに似ている。異常な鉱脈に触れた時の感覚。その記憶が、今の状況と重なっていく。
特別調査官リリア・クレメンスが机に広げた結晶の写真。その色味と形状は、確かに龍血石に似ていた。しかし、通常の龍血石とは違う不純物を含んでいる。
(あの時の地竜も、同じような......)
思考が、あの日の記憶に引き戻される。鍛冶場が崩れ落ちる瞬間。しかし今は、その痛みを力に変える時だ。
隣でザイドが調査官と話を進めている。表面上は煙たがる素振りを見せながら、巧妙に相手の出方を探る様子が手に取るように分かる。
(......面倒な奴だ)
しかし、薬屋時代の知識を持つ相棒の存在は、この調査において大きな意味を持つかもしれない。地竜の結晶と鉱脈の関係。それを解き明かすには、素材への深い理解が必要だ。
「分かりました。ただし、定期的な報告と、危険な独断は避けていただきます」
リリアの言葉に、バルドは内心で考えを巡らせる。彼女の態度には、何か切迫したものが感じられた。おそらく、地竜の異常は、彼らが知る以上に広がっているのだろう。
部屋を出る時、バルドはザイドに声をかけた。
「......何か企んでるな」
相手の軽い否定に、バルドは深いため息をつく。しかし、自分にも調査すべきことがある。鍛冶師として、そして地竜に家族を奪われた者として。
夕暮れの街を見下ろしながら、バルドは固く誓う。今度こそ、守るべきものを守り抜くと。
戦槌の重みが、その決意を後押しするように感じられた。
(続く)
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