第4話 かなわないな

 誰だ!呑気に旅のゴールがなんちゃら言っていたヤツは!

 先ほどから一転、シュウはジッピィのエンジンを停め、牧場手前の畦道の茂みから敷地内を伺っていた。

 予想外、父さんが牛舎の屋根に登って、トタンの修理をしていたのだ。

 父さんの位置からは牧場の中を広く見渡せる。

 もちろん、シュウの出ていった畦道の方も。

 さーて、どうするかな・・

 帰りは寄り道せずスピードを上げて帰ってきたつもりであったが、時刻は午前5時を少し過ぎてしまった。

 加えて、運の悪いことに今日は父さんの動き出しが早い。

 思い返せば、昨夜の晩の食卓で、明日は屋根の修理をするんだぁと、母さんと話していたようにも思える。

 ミスったな・・!

 このまま牧場内に入れば、間違いなく父さんに見つかる。

 さらに父さんが動いているということは、母さんもすでに起きているはず。

 しかしその姿が確認できない以上、不用意に動くと母さんにも見つかる可能性がある。

 もし見つかったら、アラート無しの一発アウトだ。

 シュウがどうやって戻ろうかと思慮していると、畦道とは反対側、牧場の入り口の方から聞き覚えのある排気音が聞こえてきた。

 ・・・兄貴のバイク?

 屋根の上の父さんが作業の手を止め、

おぉーいと間延びした声を上げる。

 父さんのいる牛舎の下にラッキーストライク柄がキッと止まる。

 兄のリョウがこんな朝早くに帰ってきたのだ。

 メットを外した兄貴は、父さんと何やら話していると、あらー、と母さんもどこからか登場して話に混ざっている。

 兄貴がチラリとこちらを見たような気がした。

 ・・・まさか。

 なんにせよ、これは絶好のチャンス。

 シュウは立ち上がり、音を立てないようにジッピィを押して、牛舎から反対側に回り込んで倉庫の方に駆け込んでいった。


 その後は、なんとかバレずにジッピィを定位置に戻すことができた。

 ありがとな

と、ジッピィに一言お礼を言って、牛舎の様子を伺いつつ、家の玄関まで急いだ。

 玄関に入ると、スタンスミスを戻し、そのまま自分の部屋まで小走りで戻った。

 作戦成功、だが、あれは間違いなく兄貴のおかげであった。

 一体なんで?

 部屋で着替えを終えると、誰かがドカドカと2階に上がってきて、シュウの部屋を乱暴にノックしてきた。

 兄貴だ!

 ガチャっと扉を開く。

「よう!シュウ!起きてるよな!?」

「あ、兄貴?一体どうしたんだ?」

「なーに言ってんだよ。今日はたまたま気が向いたんだ」

 久々に見る兄貴は以前にも増して、精悍な顔つきをしていた。

 少し生えた無精髭すら様になっている。

 リョウは続ける。

「久々に愛する両親と、弟の顔が見たくなってな。今日は学校だろ?俺のバイクで送っていってやるよ」

 シュウは呆気に取られる。

 兄貴がバイクに乗せてくれるだって!?

「少し遠回りしていこうや。母さんが朝飯作ってくれるから、それ食ったら出発な!」

 それだけ言い終えると、リョウはバタンとシュウの部屋の扉を閉めて出て行った。

 呆然、さっきまでの緊張も、旅の余韻もあったもんじゃない。


 そんなこんなで、賑やかか朝食を食べ終えてからほとんど拉致同然に兄貴のバイクの後部座席に乗せられて学校に向かった。

「さて!」

 バイクを運転しながら、大声で兄貴が叫ぶ。

「真夜中のジッピィの旅はどうだった!?」

 ・・なんで知ってるんだ!?

 シュウがメットの中で目を剥いていると、リョウはハハハと笑って続ける。

「先週、電話で親父からお前とジッピィのことを聞いたんだ。それを聞いてピンときたよ。俺がお前だったら絶対にこの日の夜、家を抜け出して走りにいくだろうなって。」

「まさか兄貴も!?」

「懐かしいよ、俺もあのジッピィでおんなじことをしたことがあるんだぜ!」

「まさか、父さんにバレてる!?」

「父さんどころか、母さんまで知ってるぜ。まぁシュウくん。同じ轍を踏んだというか、血は争えないんだな!」

 シュウはガックリ項垂れた。

「おいおい、落っこちるんじゃねえぞ!」

「兄貴」

「どうした?」

「かなわないなあ」

 ハハッと短く笑って、リョウは答える。

「兄貴」

「今度はなんだよ!?」

「急に眠くなっちゃった」

「おいおい!」

 リョウは怒鳴って答える。

「学校だけはちゃんと行っとけ!」

 シュウは思わず吹き出した。

「とても不良のセリフとは思えないな」

「バカ言うな!俺は小中高と皆勤賞だったっての!」

「嘘だろ!?」

 ブォンと急にガンマの前輪が持ち上がる。

「うわっ!!」

 驚いたシュウは思わずリョウに抱きつくと、リョウは大声を上げて笑った。

「・・・かなわないな」

 そうシュウは呟き、優秀なお兄様の言うとおり、大人しく学校に行くことにした。

 ガンマの荒々しい排気音を聞いていると、シュウの通う高校が見えてくる。

 深呼吸とともに、シュウは空を見上げる。

 すっかり明るく晴れ渡ってしまった夏空の下、シュウの心の中もその空模様と同じく、ひたすらに澄み渡っていくのが実感できたのであった。

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