第5話 SSシナリオ2「ゴブリンの襲撃」 魔法戦士ツェッペリンの視点
東門を閉じてすぐに残りの北門へ向かう。
するとユルムト師とドラクがゴブリンを押し留めている姿が見える。数が多い。ゴブリンの本隊はこちらだったか。
モヤンさんの奥さんが倒れている姿も見える。怪我を負っている様子。
私は回復の奇跡は使えない。使えるのはユルムト師とフローセヒだ。またユルムト師は荒事には向いていない。ならば採るべき手段は一つ。
私は北門に到着すると、走りながら抜いた剣をユルムト師の斜め横の位置からゴブリンへ向けて突き出す。ゴブリンがのけ反る間に、意を汲んだユルムト師と入れ替わる。
さあ、ここからは正念場だ。
3匹並んだゴブリン達のうち2匹を受け持つ。鎧を着ているぶん、ドラクよりも私がゴブリン達の攻撃を引き受けるべきだろう。
ゴブリン達と切り結んでいると、すぐ背後でユルムト師の祈りが小さく聞こえる。モヤンさんの奥さんのうめき声も聞こえる。少し回復したのだろう。続けてユルムト師がいつもより早口で
「私はモヤンさんを運びます。フローセヒは二人の支援を。」
と言うのが聞こえる。内容はフローセヒへの指示だが、彼も到着したことを私とドラクに聞かせる為でもあるのがわかる。ユルムト師、流石に行動が適切だ。
回復の奇跡を使えるフローセヒが背後に居てくれるなら戦闘時の安心感が違う。
ドラクも同じ思いなのだろう。私が
「押し返すぞ」
と口にしたら、すかさず
「オッケー!」
と返してくる。
この村で会い、一緒に行動するようになってまだ半年程度だがこういうノリには助けられている。ピンチであってもポジティブな雰囲気を作れる存在は貴重だ。
その勢いでゴブリンを1匹斃す。既にドラクが斃した2匹と併せて3匹。門から見えているゴブリンは、待機している者も含めて5匹。まだ半数以上残っている。しかもまだ門の外へ押し返すことは出来ていない。ポジティブな雰囲気は大事だが、雰囲気だけでは戦局を変えるには足りないということか。
もう一人戦士が欲しい。
そう思ったタイミングと重なるように
「すまん。遅くなった。」
という馴染みの声が耳に届く。オスカーさんだ。息を整えるのにもう少し時間を要すると予想していたのだが。
「一人背負って走った後なのに、タフですね。」
と声を掛けると返事の代わりに大きめの呼吸音が返ってくる。ああ、まだ息はあがったままだったか。しかし戦士2名で前線を構築出来る効果は大きい。ドラクは腕は良いが体力がある訳ではない。狭い範囲で防衛線の場合は、やはり前線は戦士のほうが良い。
暫く戦い、更にゴブリンを1匹仕留める。残り4匹。しかし隣のオスカーさんはまだゴブリンを斃せていない。なるほど、彼の悪いクセが出ているようだ。彼は害意を向けてくる相手であっても、実害を被っていないうちは本気になれないようなのだ。
後衛に回ったドラクも同じことを感じたのだろう。
「ちょっとししょー!」
という少々焦れた声が彼女からオスカーさんへ発せられる。
仕方ない。戦闘を長引かせても良い事はない。私は彼に"実害"を伝えることにする。
「先程、モヤンさんの奥さんが大けがを負いました。ユルムト師が回復の奇跡を授けて下さいましたが完全に治ったかは不明です。わかりますか?貴方が躊躇えば村の他の人々が殺されてしまうかも知れないんですよ。」
私の言葉が彼に染み込むまで一拍の間が必要だったようだ。
しかし効果は劇的だった。
ゴブリン達が全員怯むのがわかる。
それはそうだろう。横に並んでいる私も彼から"圧"を感じるくらいなのだから。
オスカーさんが発したのは怒気だった。
彼が守るべき村の人々が被害に遭ったことに対する怒気。
ゴブリン達には、眼前の人間がいきなりひと回り巨大化したように感じられたのではないだろうか。
怯んだゴブリンに対し、剣を上段に構えたオスカーさんが真っ向から振り下ろす。大柄なオスカーさんが上段に構えると、剣先の高さは4m近くになる。その高さから落雷の如く振り下ろされる一撃は、ゴブリンが頭上で掲げたボロ剣ごとゴブリンを真っ二つにする。返す剣で隣のゴブリンも逆袈裟に切り上げる。更に踏み込みながら真一文字に奥のゴブリンの首を切り飛ばすとその勢いのまま最後のゴブリンも切り捨てる。
瞬きする間に戦闘が終了する。
オスカーさんの戦いぶりはこの半年で何度か目にしたが、毎度驚かされる。一度"本気"になると暴風のような勢いとなる。
怒りで大きく深呼吸するオスカーさんを宥(なだ)める役はドラクに任せ、私は素早く北門を閉める。
門横の土塁に登って外を見るが、他にはゴブリンの残党は見当たらず。丁度のタイミングで、東門からゴブリンを斃したという声も聞こえてくる。
脅威は去ったと判断してよさそうだ。
北門のゴブリンも全部斃したと叫び返し、私は眼下の仲間にサムズアップする。
フローセヒは何か言いかけて口を閉じ、ニヤリと笑ってサムズアップを返してくる。
ドラクは「やーピンチだったね!でもいつもどーり勝ったね!」とこちらも笑顔でサムズアップ。
オスカーさんはまだ怒りが少し抜けていないようだったが、しかし私の目をしっかり見ながらサムズアップ。
取り敢えずは戦闘終了。
もしかしたら、結構良いチームなのかもしれないな。我々は。
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