第4話 SSシナリオ2「ゴブリンの襲撃」 盗賊ドラクの視点
ゴブリンが襲ってきたときは、アタシはフォスコンさん家(ち)の子と村の家禽をトリ小屋へ追い立ててた。
そのまま家禽を小屋へ追い込み終わったあと、北門へ走った。
だって南側からゴブリンやってきたみたいだし、アタシ危ないところ行きたくないし、村の門はぜんぶ閉じないとアブないし、みんな南側に集中して北門を見落としているかもしれないし。
正しい役割分担だと思ったんだケド、ハズレ引いちゃったみたい。
アタシが北門に着いたときにはユルムト司祭がもういて、門をはんぶん閉めかけてて、北の畑で落ち穂をひろっていたモヤンおばさんも北門に戻ってきてるとこだった。
ユルムト司祭が「危ない!」と叫んだのと、おばさんが悲鳴を上げて門のところで倒れこんじゃったのは同じだったんじゃないカナ。倒れたおばさんの左肩のうしろから矢が飛び出してる。うしろから撃たれたんだ。
アタシと司祭でモヤンおばさんをつかんで門の内側へ引っぱりこんだところで、ゴブリンの大群が門に到着した。大群だよ大群。なん匹もいる!
このまま村に入られたら村がやられちゃう。でもゴブリンを外へ押し返さないと門は閉められない。
あ~あ、アタシ戦うのはとくいじゃないんだけどナ。
でもいつもみたいに逃げるわけにもいかない。
ゴブリン達は3匹並んでる。門の幅は広いわけじゃないからそれ以上並べないんだ。門のおかげで、相手をしなきゃいけない数が3匹で済んでいるってわけね。これはラッキーって言っていいのかな。
隣ではユルムト司祭が、門にかける予定だったかんぬきで眼の前のゴブリンを押し返そうとしてる。でもユルムト司祭ってぶとーはじゃないもんね。ってことはアタシひとりで2匹の相手をするのか。ムゥ。
眼の前のゴブリンが縦に剣を振るのを、とっさにナイフで受けた。ウゲ。サビてるうえに刃こぼれしまくりジャン。こんなので切られたら絶対ギザギザのケガになるジャン。ヤだ。ま、ケガしても”変身”すれば治るんだけどね。ここでは使いたくないカナ。なるべく。
眼の前のゴブリンだけでもイヤなのに、真ん中のゴブリンが横なぎに剣を振ってきた。ムゥ。ピンチ?
そう感じた瞬間、心のどこかでスイッチが入るのを感じる。
気持ちはアガっているまま、頭だけ少し醒めていく。
その醒めた頭でゴブリン達の動きを”視”る。
いま止めたいのは真ん中のゴブリンの横なぎ。
そこで眼の前のゴブリンの剣をアタシのナイフで流して軌道をずらし、真ん中のゴブリンの横なぎに当てる。ゴブリンの剣でゴブリンの剣を受け止めさせるけど、そのぶんアタシのナイフにかかる重さが増す。そこでナイフをひくと、直前に剣を流されたのもあって眼の前のゴブリンがバランスを崩してたたらを踏む。まぁそりゃそうよネ。
流れた剣に引っぱられてゴブリンの脇が大きく空く。すかさずナイフで抉る。「ギャッ」と叫ぶその首にトドメのナイフを突き立てる。ゴブリンが倒れる間に真ん中のゴブリンがもう一度剣を横なぎに振ってきたから、こんどは大きく身体を沈めてかわしながら無防備な足へナイフで切りつける。すると真ん中のゴブリンも痛みに驚いてスキを見せる。すかさず急所にナイフを突き上げる。
これで2匹。
でもこの程度じゃやっぱりゴブリンは怯まない。すぐに後ろのゴブリンが出てきて列を埋める。ウゥ。門の外へ押し返せないジャン。
それに手数をかける攻撃はダメだ。1匹に手間取っていたらもう1匹にヤられちゃう。
もう泣こうかな、と思ったとき、ユルムト司祭の後ろからツェッペリンの声が聞こえた。
「遅くなりました。」
やったぁ。アタシの日頃の行いが良いからピンチのときにはちゃんと助けがあるのヨ。ウン。
でもツェッペリンはユルムト司祭と入れ替わった。
…そうだよね。司祭のほうが戦いに向いていないから、交代するなら司祭とだよね。
…神サマ、アタシの日頃の行いが悪いからこういうときにガンバれってコト?
でもサスガは魔法戦士。ツェッペリンは前線のゴブリン3匹のうち2匹を引き受けてくれた。
ありがとー。1対1ならアタシもも少し頑張れる。
背中側から、ユルムト司祭の声が届く。
「門に取りつかれる前に見た限りではゴブリンは8匹です。うち2匹はドラクさんが斃してくれました。弓持ちが1匹いるようです。石垣の上には顔を出さない方が良いでしょう。」
そしてすぐに小さくささやくような声に変わった。
アタシ知ってる。神さまにお祈りしてモヤンおばさんのケガを治して貰おうとしてるんだ。お祈りのジャマはさせちゃいけない。ゼッタイに。
隣のツェッペリンに負けないくらいアタシも目の前のゴブリンとナイフで戦う。
少し経つとお祈りは聞こえなくなった。
「私はモヤンさんを運びます。フローセヒは二人の支援を。」
え。フローセヒも後ろにいるの?ってか小さな村だし戦ってたら来てくれるか。じゃああとはししょーが来てくれたら。って、そもそもいまのアタシのやってることはホントはししょーの役目じゃん。どこ行ってんのししょー。
ツェッペリンの声掛けに「オッケー」って返しながらしばらく頑張ってると、ツェッペリンとは反対側の横からにゅっと大きな腕と剣が出てきて眼の前のゴブリンを牽制してくれた。ししょーだ。
「すまん。遅くなった。」
そのままアタシと入れ替わるようにゴブリンの前に立ちふさがる。
ししょー、なんか息があがってますケド?
「一人背負って走った後なのに、タフですね。」
ツェッペリンの言葉はししょーに向けられたものだ。
なるほど、ししょーが遅れた理由はまた人助けか。納得。でもようやく、ししょーとツェッペリンが前線を組んでアタシとフローセヒが後ろでカバーするいつもの並びになった。
眼の前のゴブリンは多いけど、いつものアタシたちなら負けない。
ウン。
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