第3話 SSシナリオ2「ゴブリンの襲撃」 僧侶フローセヒの視点
北の森で渡りのゴブリンとコボルドの小集団を潰したのは夏のはじめ頃だったよな。それ以来か。ゴブリンと戦うのは。
こんな辺境の村は生き延びることに敏感だ。全員が子供の叫びに反応して適切な行動をするだろう。つまり村の石垣の内側へ速やかに逃げ込んで門を閉じ、耐える体制を整えるということだ。
ラッカ村を取り囲む石垣は高さ3mほど。厚みもそこそこで簡単には突破はできない。石垣の内側はところどころ土塁があり、よじ登れば石垣の外の獣や魔物を槍や弓で攻撃することも可能だ。門を閉めればゴブリンだろうが狼だろうが容易に攻め込むことはできなくなる。
俺は結っていた縄を放り出す。見るとユルムト師匠も縄を手放して立ち上がろうとしていたところだった。
一瞬師匠と目が合う。師匠はわずかに頷いて北門へ走る。
俺達のような癒し手は散るほうが良い。俺は反対の南門へ向かう。
しかし俺が南門に到着する前に「南門閉めたぞ!」という声が聞こえて来る。
南門に登って見張りをしているのは雑貨屋の旦那だ。最初に聞こえたのは子供の声だったが交代したのだろう。
俺が状況を訊こうとする前に、俺に気付いた雑貨屋の旦那が早口で伝えてくる。
「南の外には人はもう居ない!ゴブリン3匹!東門のほうへ向かってる!」
その説明に頷いた後、ゴブリンの他に何か来たら呼ぶよう言おうとしたら、これも先回りして
「こっちは見張っとく!何かあれば呼ぶから東門のほう頼む!」
と雑貨の旦那。
結局何も言わないまま東門へ方向転換する。
東門には、閉門役のモヤンの旦那の他に鎧を着たツェッペリンが到着していた。門はまだ閉じられていない。ということは、まだ戻ってきていない村人が居るのか。
こちらへ振り向いたツェッペリンと目が合う。
ゴブリンが東門へ回り込もうとしていることを伝えようと口を開く前に、ツェッペリンは無言で頷く。知っているというジェスチャーだ。
ゴブリンと村人のどちらが先に門に到着するかは俺からは見えないので判らない。
(…これは回復の奇跡が要るかな?)
と考えていると、ツェッペリンがするりと門の外へ出てそのまま南を向いて左手を伸ばす。あの仕草を俺は知っている。攻撃魔法だ。という事は、術の届く距離にゴブリンが来ているという事だ。まだ外に居る村人には悪いが、門を閉じることが優先だ。
ツェッペリンにすぐ中へ戻るよう声を掛けようとしたときに、ツェッペリンのすぐ背後を抜けて普通の人間より頭一つ大きな人影が中へ駆け込んで来る。虚を衝かれた俺はその巨体の発する圧に思わずビビる。
トロールかと思ったその人影はスピードを緩めると倒れこむように膝をつき喘ぎ始めた。息が完全にあがっている。
オスカーのおっさんじゃねえか。ビビらせんなよ。
オスカーのすぐ後にツェッペリンが門の内側へ戻ると、モヤンの旦那とその子供が門に閂(かんぬき)を掛ける。ふう。取り敢えず侵入は防げたか。
へばっているオスカーに再度目を向けると、背になにか乗っている。ゴブリンかと思ったらなんと村長だった。
村長はオスカーの背から降りると震えながらオスカーとツェッペリンにモゴモゴ謝意を言い始める。
…なるほど。
このお人好しのオスカーのおっさんは、足の悪い村長を見捨てられずに背負って走ったわけだ。お人好しにも程があるだろ。
何人かの村人が、遅れて東門に到着する。
土塁の上からゴブリンを攻撃するよう伝えようとしたら、到着した村人が
「弓矢と槍持ってきた!上から攻撃するよ!」
と言ってくる。
おぉい。さっきから言おうとしていること全部先回りされて一言も声出せていないんですけど。俺。
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