第4話「私に優しさを与えてくれる人」
「普段、畑仕事をやっている甲斐がありましたね」
「ミネちゃん、運があるね」
「高額クエストを狙ったおかげです」
モンスターの討伐はアルカさんに任せて、私はしましまカブの収穫に専念する。
土を掘り起こして、野菜を収穫するくらい容易にこなせる自信がある。
「しかし、奇跡のニンジンよりも伝説のしましまカブの方がお高いなんて……」
畑からカブを掘り起こすのと、どこに存在するかも分からないニンジン探しだったら、ニンジンの価値の方が高い気がするのは気のせいなのか。
「しましま模様のカブが珍しいってことで、伝説なんて売り文句が付けられてるらしいよ」
「いや、確かに、しましま模様のカブなんて見たことないですけど……」
「沼地から、ニンジン探すの大変だったもんね」
「笑わないでくださ……」
伝説のしましまカブを栽培している農家へと足を運ぶと、定番のモンスターとの戦闘に遭遇した。
私たちは自分たちに与えられた役割をこなして、畑を荒らしているモンスターの討伐と引き換えに、しましまカブをいただくという展開をもたらさなければいけない。
「アルカさん、敵の排除をお願いします」
「了解っ」
アルカさんは器用に魔法を使いながら、モンスターの視線が私に向かうことのないよう工夫した戦いを繰り広げてくれた。
そして、初手の魔法で混乱したモンスターを一頭一頭片づけていく。
「…………強い……」
なんとなくは想像できていた。
なんとなくは想像できていたけれど、実際にこうも簡単に敵を倒されてしまうと、私という荷物を背負っていたとしても、アルカさんにとってはなんの支障にもなっていないという現実を見せつけられる。
「…………カブ、収穫しよう」
魔法学園編に突入して、私が上級レベルの魔法を習得する流れになるのは、さすがに面倒だとは思っていた。
思ってはいたけど、ここまで何もやることがないのも虚しかった。
(でも、私を守るように戦ってくれているおかげで、周囲にモンスターがいない)
敵が一頭も存在しないのだったら、私がやらなければいけないことは、ただ一つ。
(しましまカブの収穫!)
意気込んで、スコップを土に差し込んだ。
そして伝説のしましまカブとやらを収穫するけど、ニンジンとときとは違って、あっさりとなんの苦労もなく、しましまカブは姿を現した。
(そうだよねー……、だって、模様がしましまなだけで、ただの普通のカブなんだから!)
カブが抵抗してきて私を襲い掛かってくるという展開にすらならず、私はしましまカブを収穫し終わった。
「しましまカブの収穫終わりましたー」
「お疲れ様」
「アルカさんも、お疲れ様でした。ありがとうございます」
心の中では、虚しい。虚しすぎるという言葉を叫んでいる最中。
それでも、数分前までは激しい戦闘が繰り広げられていて、私は畑のど真ん中でポツンと一人でカブの収穫に勤しむことができた。
自分より遥かに強いモンスターに襲われていたはずなのに、私が死の恐怖を感じないのはアルカさんの存在あってこそ。アルカさんのように、感謝の気持ちだけはきちんと伝えたい。
「クエスト前って、すっごく不安なんです」
「うん、命を懸けなきゃいけないクエストってものがあるのも本当だから」
この間のニンジンや、今回のカブ収穫は運が良かっただけと言わんばかりの言葉を向けてくるアルカさん。
生き残ることの奇跡を感じながら、私はきちんとアルカさんの言葉を受け止める。
「でも、アルカさんが華麗すぎるほどの戦闘を繰り広げたおかげで、私も……このカブちゃんも無事です」
今は守られてばかりの自分なのは本当だけど、魔法学園に通うなんて面倒な展開は迎えたくない。
魔法学園に通う以外の方法で、アルカさんとディナの力になるための方法を真面目に考えていきたい。
「たくさんの恩、返していきますからね」
「恩とか感じなくてもいいのに」
「もう、アルカさんは優しいので、そう言うと思ってました」
異世界に転生してきてからの私の涙腺は、何度も何度も動かされているような気がする。
涙を堪えるのが、こんなにも大変だってことを思い知らされるくらい。それくらい心が感動しすぎて怖くなる。
「ミリちゃん、どこか怪我してない?」
「アルカさんが強すぎるので、怪我をしている暇なんてないですよ」
どうか、この幸せが続きますように。
そんな神頼みに縋っていたのは、過去の自分だけでありたい。
今の自分は、この幸せが続くように努力する人間でありたい。
「こうしてアルカさんとパーティを組むことができて……そして、アルカさんとお知り合いになれたことが最高に幸せなんですよ」
「俺も、ミリちゃんと出会ってからの日々が最高に楽しい!」
最高に幸せ。
最高に楽しい。
それらの言葉を、そっくりそのまま、もう一度アルカさんにお返ししたくなってくる。
「あの……」
「ミリちゃん? どうかした?」
戦闘終わりだというのに、アルカさんと和やかな会話をしすぎたかもしれない。
心が感傷的になりすぎていて、言葉を上手く紡げなくなってしまった。そんな私を見かねて、アルカさんは私の瞳を真っすぐ見つめてくる。
「あの……ですね……」
「うん?」
言葉を発するのに、こんなにも時間が必要なんて初めてのことだった。
何か特別なことが起きるわけじゃないのに、前世では見られないような深い青の瞳に見つめられるだけで身体に緊張が走る。
「ミリちゃ……」
「あ……お……と……」
「あおと?」
アルカさんが『あおと』と声に出すと、私は何もなかったことにしてくれと言わんばかりに物凄い勢いで何度も首を横に振ってしまった。
「私、アルカさんと出会えたことに、とても、とても、とっても感謝しています」
元々臆病とか、そういうのではないと思う。
小学生の頃までは、私の描いた絵を褒めてくれる人がいたのに、中学生以降の天狗になった私に声をかけてくれる人がいなくなったっていう事実にずっと囚われていたのかもしれない。
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