第3話「どうか神様、私にチート能力を授けてください」
「私も、ディナさんが嫌なことはやりたくありません」
「農作業、頑張れるか?」
「畑を耕すのは、私がやりたいと思っていることです」
異世界に来てからは、自分の世界が変わったような気がする。
大袈裟だと思わなくもないけど、本気の本気で世界が変わったような気がする。
きらきらとした光の粒子が見えるわけではないけど、私たちが立つこの世界も光り輝いて見える気がするっていうのは気のせいではないはず。
「その言葉、撤回するなよ」
ディナさんに手を引かれる。
ただ、それだけのこと。
ディナさんと一緒に、一歩を踏み出す。
ただ、それだけのこと。
ただ、それだけのことが積み重なっていく。
「いや、あの、ディナさん? コレットちゃんは……」
「コレットの面倒は、兄の俺が見るに決まってるだろ」
「……ありがとうございます?」
お店の出入り口の扉が開かれる。
このタイミングを分かっていたのかいなかったのか判断はできなかったけど、扉が開いた瞬間に手を離されて背中をとんと軽い力で押された。
「老若男女参加できるバーティーなんだけど、ドレスコードがあるんだよねぇ」
「へえ……そうなんですか……」
「ミリちゃんのドレスなら、俺が用意するって言ったのに」
「どうせ甘やかすなとか、ディナさんが言ってきたってことですよね!」
私の話し相手はディナさんから、アルカさんへと交代した。
そして私たちは異世界生活第二のクエストに参加するため、リナージュ村と呼ばれている場所へとやって来た。
「ミリちゃん、情緒不安定にならないで……」
「いえ、あ、フラワリングパーティーに参加したいなとは思っているんですけど、ドレスが必要だってことに愕然としているってだけなので……」
「お城のパーティーとかじゃないから、そこまで値の張るドレスじゃなくて大丈夫だよ……」
確かにアルカさんの経済力に頼りまくることで、私の異世界生活は遥かに豊かになっていくことは容易に想像できる。
甘えたな自分が誕生することは間違いなく、飴と鞭の鞭を振るってくれるディナさんの存在はありがたいと言えばありがたい。
「俺、フラワリングパーティーに参加するの、初めてなんだ」
アルカさんは異世界で初めて会ったときから、ずっと優しい。
ドレス代くらい自分で稼いでこいと鞭を振るうディナさんに対して、アルカさんは私の心を元気にするための言葉を送ってくれる。
「俺たちが参加する会は、ブルーヌフラワーって花が多めに用意されてて……」
どんな話をするときもアルカさんは朗らかに笑ってくれて、慣れない異世界生活でもアルカさんが隣にいてくれたらなんでもできてしまいそうな気がしてくる。
「俺に新しい世界を見せてくれて、ありがとう。ミリちゃん」
感謝の言葉を受け取れるほどのことはしていないはずなのに、些細なことに対してもお礼の言葉をくれるのがアルカさんという人。
こうしてアルカさんのことを知ることができるのが、こんなにも嬉しいことなんだと知っていく。
「アルカさんに新しい世界をお見せするためにも、クエストを成功させて大金を稼ぎますよ!」
「おっ、やる気に満ち溢れてきた」
手を、握られた。
あったかくて、優しくて、いつだって私に安心感を与えてくれる。
今度こそ突き放されることなく、信頼あるアルカさんの手に私の右手は包まれた。
「迷子にならないように」
「……ありがとうございます」
子ども扱いされているのかなって感じもしたけど、これがアルカさんの気遣いだって気づくと子ども扱いも案外悪いものには感じない。
クエスト名 伝説のしましまカブを収穫せよ
場所 リナージュ村
依頼主 リナージュ村村長
報酬 三万エル
しましまカブの葉
その他
「ミリちゃん、飼育員のドゼットさんに話を聞きに行こっか」
「飼育員……?」
奇跡のニンジンや伝説のカブといった、安っぽいネーミングをなんとかした方がいいのではないか。
そんなことを考えながら、クエストの依頼書を眺めているときにアルカさんに声をかけられた。
(さすがに私に冒険者としての経験はない……)
手際よくクエストをこなしていくアルカさんを見ていると、何もできない自分に対しての不安が増幅してくる。
(あー、不安しか抱けないなんて、かっこ悪い……)
不安なことがあったら吐き出した方がいいのは分かっていても、それを素直にやっていいのか躊躇ってしまう。
(だって、少しは活躍したい……)
生活を豊かにするための魔法くらいしかつかえない人間が活躍したいとか、何様だよって思われるかもしれない。
でも、私だって一応は異世界に転生してきた主人公的存在であることに間違いはない。格好つけられるところは、格好良く決めてみたい。
そして何より、アルカさんとディナさんの役に立てる人間になりたいって思う。
(私、二人からもらってばかりの人間だから……)
何もできない自分に情けなくなっても、自分にできることは何もないから辛すぎる。
ここで何か大きな力を手に入れるとか、素晴らしいアイテムが登場して冒険の役に立つとか、そんな幸運に恵まれてみたいと思う。
でも、その奇跡っぽい展開が怒らないのが私らしいのかもしれない。
「要するに、逃がしてしまったモンスターが、しましまカブの畑を荒らしてしまっているってことみたいだよ」
コミュニケーション能力の高いアルカさんは率先して、モンスターの飼育員さんに話を聞きにいってくれた。
これだけの情報を得られれば、もうクエストの達成は見えてきたようなもの。
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