第2話 目と鼻のさきで…

昼前までベッドの中でうだうだしながらも、昨夜の映像は頭を離れなかった。


胸も露わな美少女が斬首される…。

それは決して性的なものではなかったが、ただグロテスクなだけとも違う。

何とも言えない気持ち悪いしこりを俺の心に残した。


幸い、この日は夜勤だったから夕方までに睡眠を取ればなんとかなる。

俺はコンビニにストゼロを買いに行き、それを一気に飲み干して

なんとか眠りについた。


新宿歌舞伎町の無料案内所前でド派手なハッピを着て突っ立つこと。

それが俺の仕事だった。


今まで気にすることもなかったが、ここで紹介する子や

大久保公園あたりで立ちんぼしてる子たちだって


やばい奴に捕まれば、いくらでも昨夜みたいなことに

巻き込まれうるんだよな…。


憂鬱な気持ちで何人かの客にコンカフェやガールズバーを紹介した俺は

休憩時間がきたので、雑居ビルの四階にある休憩室に向かった。


休憩室には、関西系の先輩である赤沢さんが休憩室にいて

美味そうにタバコをふかしていた。


「おはよう小山ちゃん。目の下にえらいクマがあるで。ちゃんと休めてるか?」

「酒の力で寝たから大丈夫です。不規則だとたまに眠れないときがありますね」


赤沢さんは、側頭部と後頭部には髪が残っていたが

頭頂はつるつるに禿げており、東京に来る前は日雇い労働者だったらしく

格闘選手のようにガッチリとした体つきをしている。


「カップ酒飲むか? 迎え酒や。気分よく仕事したいやろ」

俺は赤沢さんの好意をありがたく頂戴し、カップ酒で乾杯した。



「さてと。じゃあそろそろ俺は戻るわ。小山ちゃん、ゆっくりな」


赤沢さんは手を掲げて合図を送り、

エレベータホールの方へ、戸口を潜って消えて行った。


そのときだ。


エレベータが四階に到着し、乗り込もうと扉に向かうの足音がした後

今度は鉄がぶち切れる大響音が聴こえたと思うやいなや


ブツッと肉と骨が捩じ切れるような嫌な音が続いてひびき、

それから少しして、ビルの下方から凄まじい爆発音がした。


一瞬の出来事だった。

俺の頭から、ザアアと血の気が引くのが分かった。

扉を勢いよく開き、エレベータホールまで走ると


扉が開いたままのエレベータの前に男が倒れている。

(エレベータの中には何もなく剥き出しのコンクリートの壁だけがあった)


それはおそらくエレベータによって頭部が切断され、

大量の血を流して事切れた、赤沢さんの死体だった。



自分の中の現実感覚が一気に崩れ去る。

昨日はWEB越しだったが、今度はほとんど目と鼻の先で

同僚の首がなくなったのだ…!!



一体、俺の身に何が起きようとしているんだ?!

途轍もなく凶悪で悪意に満ちたことに巻き込まれようとしている。


俺は立て続けに起こる猟奇的な出来事の意味を受け止められずに

ただ、赤沢さんの首なし死体の前で立ち尽くしていた。

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