5.決着(6)

旅の最中、わらわと勇者さまの仲は緩やかながらも親密の度合いを増しつつあった。 

互いが想いを抱き合っていることが分かった時は、この上も無く嬉しかった。

けれども、勇者さまはわらわとの関係が一線を越えることを酷く怖れていた。

それは至って当たり前のことだったのだろう。

その名を轟かせる勇者と言えども所詮は平民に過ぎない。

皇女たる身分の者と閨を共にすることなど、あってはならぬことなのだ。

それに加えてわらわは『斎女』となる身。

浄くあらねばならぬ身を穢したとなれば、二人とも苛烈なる罰を受けることは避けられぬのだ。


けれども、わらわは焦りを抱きつつあった。

それは、旅を続けるにつれて深刻なものになりつつあった。

旅の最中に立ち寄る街々にて、勇者さまは大変な歓待を受けていた。

魔王軍と戦って華々しき成果を挙げつつあるのだから当然と言えば当然だろう。

悩ましいことに、歓待する街の有力者の中には、己の娘を勇者さまにめあわせようとする者が往々にして見受けられたのだ。

立ち寄る街の領主であったり、あるいは富裕な商人であったりと、様々な者が己の娘を勇者さまにめあわせようとした。

自分の娘が勇者の妻ともなれば、それは一族の名を高めることになろう。

また、街に勇者が留まることになれば街の安全は担保されるのだから、そう考えることは当たり前なのかもしれない。

けれども、それはわらわからしたら在っては為らぬことなのだ。

田舎貴族の娘や街娘風情に勇者さまを取られるなど許される訳など無いのだ。

勇者さまの妻となるのは、わらわでなくてはならないのだ。



ある夜のこと。

思い詰めたわらわは勇者さまの寝所へと忍び入った。

眠りに就こうとしていた勇者さまの前にて一糸纏わぬ姿となったわらわは、乞うようにして愛を迫った。

純潔を捧げさせて欲しいと涙ながらに訴えた。

勇者様は大いに戸惑い、思い直して欲しいと懇々と頼み込んで来た。

そんな勇者様に対し、わらわは切々と胸の内を訴えた。

アウグスタ皇国の宮殿で初めて出逢ったその時から、勇者さまを只管に想い続けていたと。

共にジャマタヴォルグを討ち果たした時、これまでに無い高揚感を味わうことが出来たと。

女皇の許しを得て共に旅を始めた時、どれほどに嬉しかったかと。

共に旅する最中で絆が深まり行くことが、この上無く幸せであったと。


こんなにも勇者さまのことを想っているのに、街々にて娶せる話を耳にすることが途方も無く苦しいのだ、と。

晴れて魔王を討ち果たした暁には、夫婦になりたいのだ、と。

だから、わらわとの絆を確かなものとして欲しいと。



  その夜、わらわは遂に勇者さまと結ばれた。



純潔を捧げたその夜から、わらわと勇者さまは幾度と無く閨を共にしてきた。

勇者さまの欲も熱も、わらわの身体はしっかりと覚えている。

手を握り合うだけで身体の奥が勇者さまの熱を思い出すようであって、堪らない気持ちとなってしまう。



蔓草は執拗にわらわの身体を弄ぶ。

首筋を、胸元を、そして太腿をヌラヌラを這い撫でる。

蔓草に身体を弄ばれつつ、わらわは譫言のようにして勇者さまの名を叫び続けていた。

漂い来る花の香は、その甘さや濃さを一段と増しつつあって、意識はいよいよ混濁の度を深めていた。

わらわの肌を撫でているのは勇者さまの掌だと思いつつあった。

肌は敏感さを増し、身体の奥の熱はいよいよ高まりつつあるようだった。

身体がビクビクッと痙攣した。

蔓草はわらわの身体を隈無く撫で回し、わらわの全身を強烈な痺れが走り抜けたように感じた。

わらわは身体を激しく捩らせてから、一際大きく勇者さまの名を叫ぶ。


幾度も身体を震わせたわらわは、遂に我を喪った。

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