5.決着(5)
それは余りにも唐突で、予期など全くしていないことだった。
緑の葉を茂らせた何本もの蔓草が、身動き取れぬシェルフィドーラの胸元から
躱すことすら儘ならぬ凄まじい速さにて。
伸び来た蔓草は
気が付くと、
何とかして蔓草の縛めから逃れようと試みる。
けれども、
身動きすら儘ならぬ
噎せ返るような花の薫りがフワリと漂い来る。
甘く、濃密なその薫りは、
そこには赤くて毒々しい色を湛えた花が幾つも咲き乱れていた。
勇者さま達の周りには数多の不死者が出現しつあって、一斉に襲い掛かりつつあった。
あぁ……、結界が失われてしまったのだと
迫り来る不死者どもに剣を向ける勇者さまたち。
その上に、大きな影が舞い降りつつあるように見えた。
何時しか意識が曖昧となりつつある
忍び入る蔓草は樹液を纏っているようであり、ヌルリとした感触が肌に伝わり来た。
粘着く樹液が肌に拡がるにつれ、
蔓草は
何時の間にか、荒い喘ぎ声が喉の奥から迸りつつあった。
朦朧としつつある意識の中、
皇女たる者が、いかに勇者とは言えども身分違いの者に身を捧げることなどあってはならぬことなのだ。
ましてや
『斎女』は純潔なる身でなくてはならないのだ。
もしも
申し訳程度の金子を与えられて国から放逐されるかも知れぬ。
宮城の奥底へと閉じ込められ、生涯をそこで過ごさねばならぬのかも知れぬ。
けれども、
蔓草は次々と
身体から力はとうに失せ、肌は粘液を帯びた蔓草によって撫で回されつつあった。
「あぁっ!」と吐息が口から漏れ出る。
敏感さを増しつつある肌にとって、その上を蔓草が這い撫でる様は、勇者さまの掌や指、そして舌の感触を思い起こさせるものだった。
二人の姉上様たちは壮健であり、
然れど、姉上様たちのお力は平凡そのものであって、
一番上の姉上様は、御身に何事も無ければ女皇を継ぐのであろう。
二番目の姉上は、何処ぞの国の王子に嫁ぎ、王妃として尊ばれる生を送るのであろう。
然れど、
『斎女』に就いたのなら、四十歳を過ぎるまで最高神殿の中で身を慎んで生きて行かねばならない。
恋することも叶わず、街を気ままに歩くことも叶わず、自由に旅することすら叶わない。
その定めが疎ましくてならなかった。
恨めしくてならなかった。
凡庸なお力しか持たぬのに、女皇や王妃として多くの人々から尊ばれる生を送るであろう姉上様たちが羨ましかった。
妬ましくて妬ましくてならなかった。
何とかして『斎女』としての宿命から逃れたかった。
そう願っていた時だった、勇者さまがアウグスタ皇国を訪れ来たのは。
勇者さまを一目見た時、世に稀なる傑物であることを
そして、こう心に決めたのだ。
いずれはこの勇者さまと夫婦になろう。
そのためには共に魔王軍と戦い、華々しき成果を挙げよう。
勇者の妻としての威光を以て、姉上様たちを押し退けて女皇の座を手にしよう、と。
蔓草に肌を撫で回される
この場所が荒野なのか、それとも勇者さまとの
この
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます