5.決着(3)
勇者さまたちが潮の如く寄せ来る不死者どもを懸命になって退けている最中のこと。
戦えぬ素振りをして地面にしゃがみ込んでいた
この荒野の何処からか
地面の下へと緻密に糸を張り巡らせるようなその作業は、心を
馬車の中から現れた女性に心囚われるような様となっていたのも、疲労困憊故だったのだろう。
けれども、その苦労の甲斐は十分にあったようだ。
祝詞を唱え終わって結界を発動させると、馬車から現れた女性も、共に現れた魔族たちも、指先ひとつ動かせぬ様と為り果てていた。
これは、我がアウグスタ皇国に伝わる『聖縛結界』を、旅の最中にて
数ヶ月に及び努力の賜なのか、元々の『聖縛結界』のものよりも効果の範囲や強度は随分と向上させることが出来た。
この結界に囚われた魔族は身動きひとつ取れなくなってしまうし、この結界が発動している場所へ足を踏み入れることすら出来ない。
また、この結界が発動している範囲内では不死者を出現させることも出来ないのだ。
身動きが取れなくなった女性こと、四魔候の一人である
彼女の瞳が
心が粟立つような思いがしたけれども何とか耐える。
この『聖縛結界』は、発動させた
【ありがとう! ホントに凄いね、この結界!】と、勇者さまが念話で語り掛けてくる。
【いえ、皆様が私を護って下さったお陰です】と返す
結界を維持すべく力を込めながらも、
勇者さまが無事でいてくれて本当に良かった。
正直、実に危険な賭けだったと思う。あのまま延々と不死者の群れに攻め続けられていたら危なかったかもしれない。
陽が落ちて夜となっていたら『死霊使い』の力は更に増していただろうし、全滅してしまう危険すらあったのだ。
けれども、まさにギリギリのところで
【よし、止めを刺すぞ!】と、勇者さまが呼び掛ける。
そして、三人は身動きが取れぬ
勇者さまたちを見遣る
魔王直属の重臣たる四魔候。
それを討ち取れることは、百年に及ぶ魔王軍との戦いの中では最大の成果と言って良いのだろう。
人間界の歴史に名を刻む偉業であることは間違い無い。
仮にこの先において魔王を倒せぬにしても、勇者さまは比類無き強者として尊ばれ続けるに違いない。
そうなったら、
安堵と歓喜、そして悦楽への期待で心が満たされつつあった
ふと、しっとりとした草木の薫りが漂い来たように感じた。
訝しく思って辺りを見遣ったけれども、赤茶けた荒野には相も変わらず草一本たりとも見当たらなかった。
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