5.決着(2)

馬車から降り立った私を見詰めていた勇者一味。

彼等が浮かべていた表情を、私はついぞ忘れることは無いだろう。

土埃で薄汚れた姿の彼等は、唖然とした表情を浮かべつつ私を見遣っていた。

姫である神官さますらも、呆然とした様にて私を見詰めていた。

まるで呼吸すらも忘れているかのようにして。

私は彼等を見据える瞳へと力を込める。

私の赤い瞳は、死せる者を服属させる力を秘めている。

それは魂を縛る力であって、未だ魂が肉体へと結び付いている生者への効き目は然程に強いものでは無い。

まだ陽が落ちぬ時は尚更のことだ。

けれども、少しの間なら金縛りのように動けなくすることなら出来る。

彼等が身動き取れぬ間に辺りに眠る死霊たちを喚び覚まし、一挙に葬り去ろうと考えたのだ。


しかし、私の目の縛めは勇者には効かなかったようだ。

勇者は凜とした眼差しで私を睨み返してきた。

やはり……、と私は内心で溜息を吐く。


私の視線を撥ね返した勇者は小さく呟いたように見えた。

すると。

しゃがみ込み呆然とした表情でいた神官さまは我を取り戻し、何かを一心不乱に唱え始めた。

私は狼狽し、心中にてこう呟く。

あの神官さま、戦えぬ状態ではなかったのか、と。


神官さまの詠唱が進むにつれ、勇者一味の周りは仄かな白い光に包まれ始める。

地面には複雑な文様が光で描かれ始め、その範囲はどんどん増して行く。

神官さまを起点として、波紋が静かに拡がり行くようにして。

その光の文様は、たちまちのうちに私達の足元にまで達してしまった。


「シェルフィドーラ様、引きましょう!」と家臣の呼び掛けが耳へと飛び込んで来る。

それは狼狽に満ちた声音だった。

声に促されるようにして、私は馬車へ戻ろうとする。

けれども、まるで地面に縫い付けられたかのようにして私の足は動かなかった。

神官さまが勢い良く立ち上がる。

そして、右手に携えた杖を天に向けて高々と翳す。

私の視界が光で塗り潰され、身体がまるで固く縛り上げられたかのように身動きが取れなくなってしまった。


胸中にて樹隗候じゅかいこうさまの言葉が蘇る。

『ジメジメちゃ~ん、無理しちゃ駄目だからね!』との言葉が。

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